朝日ぐんまって?
朝日フォトコン
コラム 
上州日和
還暦 [12月22日号]

 先月、母が還暦を迎えた。これまで誕生日は覚えていても年齢までは把握していなかった。50代後半であることは日々の言動から感じてはいたが、母が何も言わないので、こちらも黙っていた。
 ただ、もし還暦だとしたら、何かしらのお祝いを考えなければいけない。ある日、さりげなく聞いてみた。「今年でいくつだっけ? 還暦じゃないよね?」。母は、不意を突かれたのか一瞬、ドキっとした表情をして答えた。「何もしてくれなくていいからね。まだ若いんだから」
 60歳という年齢を認めたくないのか、「還暦」を拒絶しているようだった。そのため、だれにも言わなかったのだろう。
 だが、家族としては、還暦を迎える母に何もしないわけにはいかない。それらしいイベントを本人が拒否したため、記念となる品を贈ることにした。とは言っても、それを準備するのは男二人兄弟。困り果てて再び、母に尋ねたら、「お墓までは持っていけないから、何もいらないよ」。その前までは若さを強調したのに、今度は一転して、先が短いことを訴える。結局、悩んだ挙句に財布をプレゼント。「ありがとう。でも中に入れるお金が・・・」と母。60歳を過ぎてますます手強くなっていく母を杞憂しつつも、還暦という祝儀を終えてホッとしている。


第九誕生にドラマ [12月15日号]

 第九誕生の裏側に迫る「敬愛なるベートーヴェン」が県内の映画館で上映中だ。史実に基づきながらも、今なお謎とされる3人目の写譜師を女性に設定。大胆な解釈をもとに、偉大な作曲家と若き女性音楽家の師弟愛を超えた愛をドラマチックに描く。
 クライマックスは、第九の初演シーンだ。指揮台に立つ耳の不自由な師へ、楽団員より一段下がった舞台から合図を送る弟子。「抱きあおう百万の人々よ この口づけを全世界に捧げよう」第4楽章「歓喜の歌」は圧巻で、2人の思いが解け合った演奏に言いようのない感動を覚えた。「音楽は魂に語りかける神の言葉だ!」。映画でのベートーヴェンの言葉が心に響く。
 これはあくまでもフィクションで楽聖を支えた女性がいたかは不明。だが、第九誕生には映画のような壮大なドラマがあったに違いない。そんなことを実感させてくれるスケールの大きな映画だ。鑑賞後、第九が世界中の人々に今なお熱狂的に愛されている理由が何となく分かった。(中島)


したたか [12月8日号]

 農家の奥さんから昔、聞いたことがある。大豆の種を植えていると、隣の畑の人から「何まいてるの?」と聞かれて「大豆」と答えたところ、一緒に作業していた夫から「言うんじゃない。ハトが聞いてる」と語気荒く怒鳴られたという。
 大豆は3、4粒ずつを15cmほどの間隔で埋めていくのだが、ハトは深さと間隔を十分心得ていて、気がつくと2、3m後ろから無駄のない掘り方で順序よく豆を平らげていくという。
 我が家の庭にイチジクが1本ある。3年ほど前から実を付けるようになり、数は少ないながらも今年は夏に加えて秋も実るようになった。寒さは厳しくなってきたが、まだ何個か期待できそうだ。
 ところが、「完熟までもう1日待とう。収穫はあす」と楽しみにしていると、翌日には必ず鳥がつついている。悔しい思いを何度したことか。完熟の度合いは鳥が教えてくれるが、それを待っていては手後れだ。収穫できたのは、実ったうちの3分の1にも満たない。それも、完熟前のやや硬めの実だ。ネットをかければ防げるだろうが、自家用にそこまでカネや手間をかけるのはしゃくだ。
 それにしても動物たちのしたたかさには舌を巻く。(南保)


虚構 [12月1日号]

 先週、各報道で「いざなぎ超え」というニュースの見出しが目立った。02年2月から始まった景気拡大が4年10カ月に延びたことで、65年から70年7月まで続いた「いざなぎ景気」を上回り、戦後最長の景気拡大となったという。確かに、数年前に比べれば倒産件数は減ったし、過去最高益を更新した企業も多い。
 ただ、現在まで多くの企業がリストラを実行。派遣や契約社員を増やすことで賃金を抑えたという事実がある。景気拡大は、企業の多くが利益確保を最優先した結果とも言えるだろう。
 ニュースで伝えられているように、景気回復とはいえ、経済成長率や賃金伸び率はほぼ横ばい。また利益が大都市に集中し、地方が取り残されている印象も受ける。私たち庶民が、景気回復を実感できない理由もこんなところにある。痛みに対する代償は、還元されていないのが実情だ。
 しかし、先行きが不安視されるこんな状況でも「好況」という名目のもとに、各方面で増税や負担増が検討され、その矛先は高齢者にまで及んでいる。これが本当に正しい道なのか。
 「いざなぎ超え」が、多くの国民の犠牲の上に成り立っている「虚構」のような気がしてならない。(伊藤)


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