イラストレーター・エッセイスト 中山 庸子 さん

エッセイ同様、明るくポジティブな中山庸子さん。「イラストレーターになる」という夢を
育んだ赤城山のアトリエで=前橋

【60歳、新たなステージへ】

「中山本をどんどん利用して、自分の行きたい方に進んでいって欲しいですね」

 

【ネタが尽きることはない】

昨秋に「おとなの道草」、今月に「50代のいまこそ、しておきたいこと」を立て続けに出版した。「おとな—」では道草の楽しみ方を、「50代—」ではより豊かな生活を送るために今やっておきたいことを伝授。「例えるならリバーシブルコートの表裏のような2冊。どちらも同世代女性に向けて書きました。片や自分らしく生きるためのヒント、片や実利的なお得情報が満載です」
これまで執筆した著書は150冊以上。来月もイラストブックを出す超売れっ子だ。「『よく書くことがあるね』と言われるけれど、私は何かの専門家ではないので生活そのものが仕事みたいだから、生きてる限りネタが尽きることはないですね」

【色んな括りから自由に】

絵を描くこと、本を読むことが大好きな少女だった。「イラストレーターになりたい」と思い始めたのは中学の頃。前橋女子高を卒業後、女子美大へ進む。在学中、セツモードセミナーにも通い始める。創設者の長沢節氏の教えは「表現者は生活者としても一流であれ」。「男女差別はなく、男も女も自活能力が問われた。今でこそ弁当男子やイクメンは当たり前ですが当時としては画期的。色んな括りから自由になれましたね」 セツには高校生から洋裁のプロ、会社員まで様々な人が学んでいたが、そこで人生のパートナーになる松本孝志さんと出会う。

【週末婚が一番面白そう】

ダブルスクール卒業後、地元で高校の美術教師として働き始める。24歳で結婚。松本さんが都内の出版社に勤めていたため、土日に松本さんが群馬に帰ってくる週末婚をスタートさせた。「東京に行くことも考えたし中間地点の埼玉に住む案も出たものの、最終的に週末婚が一番面白そうだなと(笑)。夫への信頼があったからこそ出来ました」
2人の子どもが生まれ、仕事に子育てに追われる日々。が、夢を忘れることはなかった。32歳の時、初のイラストブックを出版。その5年後、高校を退職しイラストレーターとしての道を歩み始める。「週末、赤城山に建てたアトリエで夫とコーヒーを飲みながら色んなことを話し合いました。その時間がなかったらとっくに夢を諦めていたかもしれない。エッセイを書いてみたらとアドバイスしてくれたのも夫でした」

【「月刊中山」と呼ばれた】

42歳で本格的なエッセイを執筆。自らの夢を実現するまでの体験を綴った「夢ノートのつくりかた」はロングセラーとなりシリーズ化された。「なりたい自分になる100の方法」でベストセラー作家の仲間入りを果たし、その後も次々とヒット作を飛ばす。「40代は、ひたすら書いていました。『月刊中山』と呼ばれたくらい(笑)。本屋の書棚に『中山庸子』のインデックスプレートが入った時は嬉しかったですね」
中山本のテーマや切り口は多彩だが、共通しているのは心和む文とイラストを通して「夢を描くことの大切さ、自分らしく夢を叶えることの素晴らしさ」を自らの経験を基に伝えている点だ。「○○しなさい」「これはダメ」というフレーズは一切ない。「これが出来たら素敵」「こうしたらもっと楽しい」という風に仕事や人間関係、恋愛など悩み別の対処法が分かりやすく書かれている。語りかける言葉は前向きで温かい。「元教員だからかな。ショボンとしている生徒がいたらまず励ます。責めても意味ない。北風と太陽だったらやっぱり太陽でしょう」

【かなりのリアリスト】

妻、母、主婦、そして働く女性として—多面的な視点から綴られたエッセイは時代のニーズを的確に捉えながらも、しっかりと地に足が付いている。不安を煽ったり無責任なプラス思考を説く啓発本とは一線を画しているからこそ、幅広い世代から絶大な支持を集めているのだ。「『中山さんは夢見る理想主義』と言われるけれど本質的にはかなりのリアリスト。現実を受け入れ与えられた場所で自分をどう咲かせていくか、他人任せにしても何も変わらないという気持ちが根底にあります。だから、私の本はバイブルじゃなくガイドブックと同じで、主体はあくまでも読者。面白そうなところを自分で選んでもらえれば良い。中山本をどんどん利用して、自分の行きたい方に進んでいって欲しいですね」

【新たな気持ちで頑張りたい】

代名詞となった「夢ノート」を自らも付けているが、夢は年々変わってきているという。「20代は物欲時代。30〜40代は『これをしてみたい』という体験願望が増え、50代になると『こういう人でありたい』と考えるようになった。最近は足し算から引き算の方に関心が移ってきていますね」 デビューから約30年。夢の変化と共に、本の内容も励まし系から共感系へと徐々に変わってきている。「おとなの道草」では「人生は路地にある」と説き、男性の心も掴んだ。来月からは60歳という新たなステージが始まる。「50代では最年長でしたが60代では最年少。ヤングとして新たな気持ちで頑張りたい。60歳、何が待っているのか、今からワクワクしています」—これまで多くの夢を叶えてきたが、還暦を迎えてもまだまだ夢は尽きそうにない。

文:中島 美江子
写真:高山 昌典

【プロフィル】Yoko Nakayama
53年前橋生まれ。女子美術大、セツモードセミナー卒業。高校の美術教師を経てイラストレーター、エッセイストに。「いいこと日記」など数々の著書を発表。雑誌連載やメディア出演、講演など幅広く活躍中。東京在住

 

〜中山氏へ10の質問〜

自分軸のあるブレない人になりたい

—尊敬する作家は 

その時々で変わりますが最近、ハマっているは三浦しをんさん。彼女は本当にうまい。読みやすいし、これだけ感情移入できる作家も珍しい。小説とエッセイのギャップも良いですね。「神去なあなあ日常」では林業をテーマにしていますが、その着眼点も素晴らしい。一方、ずっと変わらずに尊敬しているのは宇野千代さん。究極のポジティブ思考で宇野さんみたいになりたいですね。

—長所短所は

長所は段取り力かな。主婦、妻、母、作家と色んな役割があるので、時間の使い方は上手になりました。短所はせっかちでなところ。なかなか人のペースに合わせられない(苦笑)。

—座右の銘

「足るを知る」。これまで「もっともっと」で来ていた。還暦を前に欲張りにならず、当たり前の日常を大切にしていきたいと思うようになりました。

—好きな食べ物飲み物は

いっぱいありますが、この季節はお鍋の後の雑炊が最高。飲み物は日本酒。特に大吟醸が好き(笑)。

—今、やりたいこと

最近、ちゃんと絵を描いていなかったのでもう一度原点に戻ってジックリ向き合いたい。後は旅行です。

—前橋のオススメは

元黒飴。私のソウルキャンディーです(笑)。あと、広瀬川沿いの風景も素晴らしい。

—マイブームは

テニスと気功。テニス歴は25年、気功歴は3年になります。最近はアイパットでの漢字書き取りに夢中。漢字検定を受けてみたい。

—モットーは

毎年、モットーを漢字1文字で表わしているのですが、2013年は「幹」。心身の中心、体幹鍛えて自分軸のあるブレない人になりたいですね。

—愛用の仕事道具は

Too社のコピックサインペン。新色12本を含め100色持っています。色数が多く発色も綺麗。このペンと色鉛筆や固形水彩、パステルなど、色んな画材=写真=を組み合わせて描いています。

—最近、感動したこと

出雲大社の神迎神事。昨年11月23日、稲佐浜の寒空の下で見学しましたが、出雲の国に伝わる神話やそれらを育む風土、神事を守る人々のありようなど全てに感動しました。

 

取材後記
緑色と赤色でペイントされた本棚、ウサギの絵を象ったキャンバス、使いかけの画材道具—撮影場所となった赤城山のアトリエには、中山さんと松本さんの作品がそこかしこにあふれている。「イラストレーターになりたい!」という夢を育んだ場所は伸びやかな空気が漂い、来訪者を幸せな気分にさせてくれた。
「夢は絵空事と思っている人は、絶対叶わないですよね。私は絵を描くことも文を書くことも絵空事とは思っていない。どちらも人生の設計図みたいなもので、いつも『あんな人になりたい』とか『こんな素敵な家に住めたらいいな』という風に自分の願望を込めています」
自らの気持ちに正直に生きてきた中山さんの言葉は、どれも力強く説得力があり心にストンと響く。エッセイ同様、明るくポジティブな人だ。約1時間のインタビューを通して、たくさんの元気とパワーをもらった。