ケヤキ通りから[5月10日号]

前橋の住まいから引っ越し荷物を搬出した翌朝、前橋駅前のホテルでケヤキの緑を眺めながら、朝食をとりました。初めてこの通りを歩いたのは3年前。着任以来、担当してきたこのコラムも、109回目(多分)を迎えた今回で最終回です。

初めて住んだ群馬県で新たな職務にあたり、各地に出かけ、多くの人と話をさせていただきました。つたない小欄にも度々、感想の手紙をいただきました。ほとんど返信もできず、この場を借りてお礼とお詫びを申し上げます。

発つ前にあいさつをすると、みなさんに「群馬はどうでしたか」と尋ねられました。自然豊かで野菜がおいしいのに加え、私が挙げたいのは「ら」札。上毛かるたの「雷と空風 義理人情」が、この地を体現していると思います。

雷は少なくなったとはいえ、冬の空っ風には冗談なしに吹き飛ばされました。口下手だけれど、優しさと気遣いある上州人にほろり。ら札を赤くし、GHQへの怒りを示した静かな抵抗も、今に引き継がれていると感じます。

74年前の敗戦間際、全国の都市が空襲によって焦土と化しました。前橋駅北口の500メートルにわたるケヤキ並木は、戦災復興の象徴として生まれたけれど焼け跡に根づきにくく、地域住民が水をやり、支柱をつけて世話をしたと聞きます。

新しい任地の福岡でもまた、ケヤキ並木の通り沿いに居を構えました。前橋駅前と同じく新・日本の街路樹百景の一つで、敗戦3年後の事業だそうです。夏の木陰、秋の落ち葉と折りに触れ、群馬を思い出すことになりそうです。

(朝日新聞社 元前橋総局長 岡本峰子)