デミタスの豊かな世界味わって

「デミタスカップの愉しみ」

ミントン デザイン:クリストファー・ドレッサー≪ターコイズ地七宝繋ぎに花文カップ&ソーサー≫(1871年)

本展では、日本有数のアンティーク・デミタス・コレクションである村上和美コレクショから精選した逸品約380点を紹介しておりましたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、会期最終日の来月13日まで臨時休館となりました。大変残念ですが、当館HPで本展の様子をご自宅で鑑賞できるVR映像を公開しておりますので、本誌のコラムと共に楽しんでもらえたらと思います。

大航海時代、16世紀から17世紀にかけて、東洋から西洋に喫茶の習慣が磁器製の茶器と共にもたらされました。17世紀後半には、日本の伊万里焼や柿右衛門の磁器製品もオランダ東インド会社を通じて輸出されています。ファイアンスなどの陶器を用いていた西洋では、硬くなめらかで白く、透き通って光を通す磁器は、大変貴重なものとされ、18世紀に入ると東洋の磁器製造技術に学んで西洋でも磁器生産が始まります。

ヨーロッパのテーブルウェアの様式は19世紀に確立しますが、そのなかで異色な存在として現れたのが、濃いコーヒーを飲むための小さなコーヒーカップ、デミタスでした。中産階級が台頭したヨーロッパにはコーヒー文化が浸透し、デミタスはディナーコースの最後に供されるコーヒーのために、またコーヒータイム用のセットとして広まっていったのです。

19世紀になると多様なメーカーが万国博覧会などを舞台にテーブルウェアの技術やデザインを競うようになります。そしてデミタスは掌にのる小さなサイズという特性を生かした、超絶技巧や大胆な形状が見どころとなっていったのです。

マイセン ≪貼りつけ花鳥とスノーボール蓋付きカップ&ソーサー≫(1860~1880年)

第1部は「デミタス、ジャポニスムの香り」と題し、18世紀末の中国風のデミタスを出発点に伊万里様式の西洋的アレンジや、日本的なモチーフや構図に学んだジャポニスム様式など日本的な要素に着目します。そして、マイセン、セーヴル、ミントンなど各国の名窯が古典的な様式から、写実的な表現、流れるような線のアール・ヌーヴォー、モダンで幾何学的なアール・デコの様式を展開していった歴史をたどります。第2部「デミタス、デザインの大冒険」では、ガラスのデミタス、花や果物を描写したかたち、金銀彩や宝石細工のように繊細なジュール装飾など、見どころを絞ってデミタスを分類しています。

西洋の人々が身近なテーブルウェアを通じて受け止めた東洋的な意匠や、時代ごとの様式の展開を味わいつつ、アンティーク・デミタスの豊かな世界をお楽しみください。

※問い合わせは、同館(027・346・5560)へ。

 

県立近代美術館 学芸員
松下 由里 さん

1990年から群馬県立近代美術館と群馬県立館林美術館に勤務。企画展示《美術と音楽》(2016年)、《ウィリアム・モリスと英国の壁紙》(2018年)など担当。

掲載内容のコピーはできません。