バイオリニスト 成田 達輝 さん

「まえばし市民名曲コンサート」前日のリハーサルを終え、リラックスした表情を見せる成田さん=高崎のシンフォニーホール

「守」から「破」そして「離」へ

「夢は世界中の人に僕の演奏を聴いてもらうこと。音楽って良いなって感じてもらえたら嬉しいですね」

 

【前橋で演奏できて幸せ】

「心臓はバクバクしっぱなしでしたが、前橋で演奏が出来てとても幸せでした。客席に知り合いの顔も見えたりして(笑)。今まで支えてくれた方に少しは恩返しができたかな」 1月21日に開かれた「まえばし市民名曲コンサート」。第二の故郷・前橋での凱旋リサイタルを終え、晴れやかな表情を浮かべた。
2度目となる群馬交響楽団との共演で、初めて挑んだモーツァルトのコンチェルト。初々しくも堂々とした演奏で、会場を埋め尽くした観客を魅了した。「本番前はオケとのかけ合いに苦労するかなと思いましたが、そんなことはなかった。ヘンな先入観は捨てるべきですね」と屈託ない。当日、群響コンサートマスターを務めた水谷晃さんは、「伸びやかで透明感があって、何を表現したいかがスゴク伝わってきた。日本音楽界の次世代を担う素晴らしいバイオリニストです」と大絶賛した。

【ターニングポイントの地】

札幌出身。3歳からバイオリンを始める。澤田まさ子氏に師事。小学校3年で地元ジュニアオケに入団。この頃から既に、学校のホームルームで先生や同級生たちを前に演奏を行っていた。「皆から弾いて弾いてって言われるのがうれしかった。人前で演奏するのは大好き。練習はほとんどしなかったけど(苦笑)」
音楽を聴くのも好きで、特にジャン=ジャック・カントロフのバイオリン演奏が大のお気に入りだった。
中学1年の時、父親の仕事の関係で前橋へ移り住む。読売日本交響楽団ソロコンサートマスターの藤原浜雄氏に師事、技術や表現力に加えプロとしての姿勢を学ぶ。「それこそ『守破離』の守を徹底的に叩きこまれたし、どうやったら音楽で食べていけるかも教えてもらった。札幌に居たらバイオリニストになっていなかったかもしれない。群馬は僕にとって人生のターニングポイントの地です」 市立箱田中卒業後、東京の桐朋女子高校音楽科(共学)に進む。3年間、前橋から往復5時間かけて通った。在学時に東京音楽コンクール第1位や日本音楽コンクール第2位など数々の賞を受賞。一方、新日本フィルや東京響と共演するなど着々とキャリアを積み重ねていく。

【ロン=ティボーで2位に】

「芸術の都パリに住みたい」 高校卒業から半年後に幼い頃から憧れていたパリ市立13区音楽院に留学。入学直後、ロン=ティボー国際音楽コンクールに出場し第2位に輝く。「コンクール以上に新生活の準備が大変だった。平常心で臨めたのが逆に良かったのかもしれない」
若手音楽家の登竜門として知られるロン=ティボー本選では、シベリウスのコンチェルトを演奏。コンクールの数カ月前、群響と5回連続で弾いた作品だった。「その時の共演が勉強になった。2位を獲れたのも群響のお陰だと思っています」
現在、パリ国立高等音楽院に在籍。カントロフ氏とフローリン・シゲティ氏に師事する。カントロフ氏からは音楽や演奏に対する新しいアプローチ法を、シゲティ氏からは運弓法を主に学ぶ。「小学校の頃から大好きだったカントロフ氏に教えてもらえるなんて夢のよう。不思議な縁を感じます」

【心が解放され自由に】

パリに来て1年半。音楽一辺倒だった生活はガラリと変わった。自炊をしたり、美術館を訪れたり、本を読んだり。音楽家以外の友達もたくさん出来た。「色んなタイプの人がいて毎日が刺激的。日本にいた時はクラシック音楽のことばかり考えていたけど、最近はポップスや芸能界など様々なことに興味がわいてきた。演奏に対しても『こうしなきゃ』という頑なさが取れてきて、両親からようやく人間らしくなってきたねって言われます(笑)」
休みの日に良く訪れるのはドビュッシーの生家。周囲には豊かな森が広がる。「この美しい風景からインスピレーションを得ていたのかなと思うと、ドビュッシーが身近に感じられます」 呼吸する様に、あらゆるものを吸収する日々。自分の意見をハッキリ言う人々もエネルギッシュな街も気に入っている。「こっちに来て心が解放されたというか自由になった気がする。パリの空気が合っているんでしょうね。音楽だけでなく、何事にも貪欲に挑戦しキャパシティーを広げていきたい」

【目指すはもちろん1位】

現在、パリを拠点に研さんを積みながらヨーロッパや日本でリサイタルを開く。一方、来月から始まるエリザベート王妃国際音楽コンクールに向け練習に励む。ロン=ティボーと並び世界三大コンクールの一つだ。「大会に向け順調に準備が出来ている。伸び伸びとフレキシブルに弾きたい。目指すはもちろん1位。群馬からも応援よろしくお願いします(笑)」と気負いは全くない。
日本を離れ音楽とも良い距離感が取れるようになり、「守離破」の守から離、そして破の段階へ進んだ若き俊英。加速度的に進化を続けているが、バイオリニストとしての夢は幼い頃から変わらない。「世界中の人に僕の演奏を聴いてもらい、音楽って良いなって感じてもらえたら嬉しいですね」 端正な顔がフワリとほころんだ。

文:中島 美江子
写真:高山 昌典

【プロフィル】Tatsuki Narita
92年札幌出身。3歳よりバイオリンを始める。中学1年から約6年間、前橋で過ごす。06年第60回全日本学生音楽コンクール中学校の部全国大会第1位、09年日本音楽コンクール第2位、10年ロン=ティボー国際コンクール第2位など、数々の賞を受賞。これまで尾高忠明指揮・NHK交響楽団を始め、群響や新日フィルなど数々のオケと共演。パリ在住。

 

〜成田さんへ10の質問〜

体を鍛えたい。とにかく運動不足なので

—愛用のバイオリンは

18世紀末のフランス製バイオリン=写真。昨年3月に購入したが、それまで25年くらい、ずっと弾かれていなかったようです。初めは全く鳴らなかったけど、どんどん音が出るようになってきた。温かみのある音が特徴。僕が25年の眠りから目を覚まさせているような気がします(笑)。

—好きな食べ物飲み物は

ラーメンとジンジャーエール。あと、最近20歳になったのでお酒も飲めるようになった。特にビールが好き。

—群馬のイチオシ

登利平の「鳥めし」。前橋にある「とんとん広場」の豚カツもメッチャおいしい。前橋市三夜沢町の赤城神社も、荘厳な雰囲気が気に入っています。

—趣味は

手品。最近は知恵の輪にもハマっている。良い気分転換になりますね。

—今、やりたいこと

体を鍛えたい。とにかく運動不足なので(苦笑)。

—最近驚いたことは

「まえばし市民コンサート」で群響のコンマスが水谷晃さんだったこと。高校の先輩だったので再会できて嬉しかった。あと、久しぶりにあった同級生の背が高くなっていたことかな。

—長所短所は

長所は楽天的なとこで、短所は悲観的なところかな。あ、それだと意味分かんないですね。やっぱり、短所はないです(苦笑)。

—バイオリニストじゃなかったら

本気で手品師とか魔術師になりたかった。不思議なことが大好きなんです。

—好きな作曲家は  

やっぱりモーツァルトかな。今、弾いてみたいのはドビュッシーの曲です。

—休日の過ごし方

朝起きないし、夜も寝ない。本当にグダグダで(笑)。一人暮らしを満喫しています。

 

取材後記
艶やかで瑞々しい音色と、その奥に宿る熱いパッション。凱旋リサイタルからは、演奏に対する真摯な姿勢と音楽への愛情がストレートに伝わってきた。弱冠20歳にして既にスターとしての風格が漂う。「技術だけでなく、音楽の一番深いところが見えている。『ギフテッド』という言葉があるが、彼の才能はまさに天から与えられたもの。必ず世界に出ていくソリストです」 所属事務所「ソナーレ・アートオフィス」金子哲理代表の言葉に何度もうなずいてしまった。  が、舞台を降りれば普通の若者である。撮影時、写真写りを何度も確認したり、茶目っ気たっぷりにポーズを取ってくれたり。年相応の顔を見せてくれた。群馬、日本を超えて世界へ—若きバイオリニストにとって、12年は正に昇り竜の如く大いなる上昇気運に満ちた飛翔の年になるだろう。