リンゴの味[10月26日号]

朝晩めっきり冷え込むようになってきた。多彩な味覚が味わえる秋は1年で最も好きな季節だ。

昨年亡くなった父はリンゴやブドウなど果物が好物で、この時期になるとお気に入りの川場の農園に母と出掛け、県産リンゴ「陽光」を買ってきてくれた。好き嫌いの多い私にとって、両親の手土産はいつも楽しみだった。

病室の父を喜ばせようと私も母も、よく擂りおろしたリンゴを持って行った。うれしそうに食べていたが、だんだんと身体が弱り最期の方は口にすることも出来なくなった。それでも、「川場の農園に行ってリンゴが食べたい」とベッドの上で何度も呟いていたのが忘れられない。

先日、父が病に臥して以来すっかり出不精の母を連れ出し川場の農園を訪ねた。旬のシナノゴールドを薦められたが、父の一番好きな陽光を味わった瞬間、在りし日の笑顔が鮮明に蘇った。

帰りの道中、母から父の話を聞かされた。「孫が小さい頃は一緒に出かけ、うれしそうだった」「農園以外にも、周辺の寺や日帰り温泉など何カ所も付きあわされて大変だった」。うれしそうに語る母と几帳面で、頑固、でも優しい父を思い出し、2人で笑った。

実家に戻り、買ってきた陽光をむいてブドウと共に仏前に備えた。サクサクと甘く懐かしい味。天国の父は喜んでくれただろうか。

(森作理恵)