動物写真家 小原 玲 さん

「ここは、写真の本を読みあさった思い入れのある場所ですね」とほほ笑む小原さん=前橋市立図書館

最終目標は宇宙共生


「喜んでくれたり楽しんでくれたり、見る人の人生を豊かにする写真を撮りたい」

つぶらな瞳が愛らしいアザラシの赤ちゃんを26年間撮影している。報道写真家として天安門事件や湾岸戦争などを取材後、動物写真家に転身した。写真展開催や写真集発行、子ども向け講演会など多方面で活躍中だ。撮影を通して自然との共生の大切さ、素晴しさを伝える小原さんに写真との出合いや動物写真への思いを聞いた。

【カメラが変えた人生】

Q写真を始めたきっかけは

写真好きの父親の影響です。中2の時亡くなった父の形見分けでもらったペンタックスで本格的に撮り始めました。高校時代、前橋の図書館に通い、タイトルに写真やカメラとある本を片っ端から読んだ。高崎ビックカメラは品揃えが充実していてよく印画紙を買いに行きました。

Q写真に魅了された理由

吉岡に住んでいた僕は前橋高校では完全にアウェイ。でも、「写真撮らせて」と言うと仲良くなれ、学校生活が俄然楽しくなりました。授業をサボり暗室にいても、「やりたいことを見つけたら学校の勉強しなくていい」と先生が出席にしてくれた。いい校風でしたね。カメラとの出合いが僕の人生を変えたのです。

Qプロを目指したのはいつ

高校時代。生意気盛りで、当時のプロより「僕の方が上だ」ぐらいに思っていました。ある雑誌社のコンテストに、入賞しそうな優等生的作品と、教室でヌード雑誌を広げる同級生の写真を送ったところ後者がグランプリを取りました。この良さは審査員に分からないと思っていただけに悔しかった。上には上がいると気付きプロになると決めました。

【「好き!」が伝わった】

Q報道カメラマンとして数々のスクープをものにしました

自分で言うのもなんですがカンが良かった(笑)。シャッターチャンスがきたら問答無用で押す。大勢のカメラマンがいる中で、「絶対一番に撮るぞ」という気合は誰にも負けなかったですね。

Q一番印象深い報道現場は

89年6月4日の天安門事件。その時広場にいましたが民主化を掲げる学生たちは非常にピュアで非暴力を貫いていました。僕が見た限り死体は一つもなかった。学生が戦車に突っ込まないようリーダーたちが手を繋ぎ制止している瞬間をカメラに収めました。米国LIFE誌の表紙に使われ「The Best of LIFE」にも選ばれましたが、僕の見た事実と違う記事と共に使われてしまった。伝えたいことが伝わらない無力感、真実が歪曲される現実に打ちひしがれました。報道写真の中で一番評価されましたが、一番悔しい写真です。

Q動物写真家に転身しました

ソマリア難民キャンプを取材している時、痩せた子どもを鬼のように探している自分に気付き愕然としました。高校の頃、写真を通して友だちが出来るのが嬉しくてカメラマンになったのに、なぜ希望ではなく一番悲惨な状況を撮るのかと。そんな時、偶然アザラシの写真を見て「撮りたい」とカナダに飛びました。レンズを向けると勝手にポーズを取ってくれる。僕の嬉しさ、アザラシの愛らしさが詰まった写真は雑誌に載り話題になりました。雑誌発売日、電車でアザラシの写真を見つめている女性がいましたが、下車駅が近づいた時その写真を定規で切り抜き手帳に挟んだのです。アザラシへの「好き!」という僕の気持ちが伝わった瞬間でした。悲しい現実でなく、人に大切にされる、世の中を明るくする写真を撮りたいと32歳で動物写真家になっちゃいました(笑)。

【スタイルを確立する年】

Q自然の大切さを訴えています

四半世紀以上、同じ場所でアザラシを撮り続けていますが流氷の減少など自然の変化を実感しています。愛らしい動物写真では現状は伝わらないと言う人もいるがそれは違う。報道現場で学んだのは悲惨なものをそのまま撮るのではなく、そこにある希望や美しさを切り取った時に人は感動するのです。環境問題も同じ。理屈っぽいものより可愛い写真の方がはるかに強い。アザラシの棲む海や餌はどうなっているのか、動物写真を見ることで自然や環境に関心が向かう。それが本来の写真の力です。

Q動物写真の撮影期間は

3年以上かけます。1年目は見ておしまい。2年で表面的な写真は撮れますが、もう1年かけ自分しか分からないものを探し出す。被写体を通して何を伝えたいかが消化できて初めて自分だけの写真が撮れます。

Q伝えたいことは

動物写真は僕の伝言。愛らしいアザラシを通して生き物の美しさ、争わないマナティを通して平和、協力して生活するプレーリードッグを通して力を合わせる大切さ、ホタルを通して身近な自然を伝えたい。地球上の共生を宇宙共生へと広げていくのが僕の最終目標です。

Q群馬はどんな場所

写真家になりたいというピュアな気持ちを思い出させてくれます。高校時代に複写したドアーノ写真集は今も吉岡の実家にあります。プロ生活が長くなると売れる写真を撮りがちだが、喜んでくれたり楽しんでくれたり、見る人の人生を豊かにする写真を撮りたいと写真家になった。原点を再認識させてくれる所です。

Q今年、挑戦したいこと

高性能ミラーレスカメラで動物を撮りたい。従来の一眼レフでは見えなかったものが見え、伝えたいことがより伝わると思う。今年は自分の写真スタイルを完成させたい。

Q群馬の若者にメッセージを

群馬にいるから何になれないとかそんなことは全くない。僕が育った街にも写真家はいなかった。今はどこにいても世界と繋がれる。群馬で育ったことを誇りに思い、自分のやりたいことや夢に向かって進んで欲しいですね。

文・写真/中島美江子

【プロフィル】Rei Ohara
61年生まれ。幼少時から高校まで群馬で過ごす。前橋高校在籍中、写真コンテストで全国グランプリを受賞。茨城大卒業後、報道カメラマンとして10年近く活躍。天安門事件の写真は、LIFE誌のThe Best of LIFE に選ばれた。アザラシの赤ちゃんとの出合いを機に動物写真家に転身。アザラシ、マナティ、プレーリードッグ、日本のホタルの写真集や著書を多数出版。名古屋在住。