合唱指揮者 三澤 洋史 さん

「副題にあるように、おにころを観た人が愛を取り戻してくれたらうれしい」と笑顔を見せる三澤洋史さん=高崎市中央公民館

難しいからこそ面白い

「自分が変われば世界の見方は変わる。心の持ちようで可能性はぐんと広がっていく。そんなメッセージをおにころを通して届けたい」

世界で最も有名な音楽祭の一つ「バイロイト音楽祭」(ドイツ)の祝祭合唱団指導スタッフや、プロ合唱団「新国立劇場合唱団」の合唱指揮者を務めるなど日本における合唱指揮者の第一人者として国内外で活躍する。23日には、群馬音楽センター(高崎)で開かれる創作ミュージカル「おにころ〜愛をとりもどせ」公演で演出・作曲・脚本・指揮を担う。91年から数年おきに上演。7回目を迎える今回は「新町歌劇団」と「高崎おにころ合唱団」の総勢約70人、初共演の群馬交響楽団と共に大舞台に挑む。おにころ公演や合唱指揮者の仕事について聞いた。

【歌と踊りがいっぱい】

「版画家の野村たかあきさんの絵本をモチーフにしている。鬼の子『おにころ』が上州と武州で起きた水争いをなくすため、自ら岩になって村人を救う物語。自己犠牲の愛がテーマだが、僕は、おにころの愛に触れ村人の心が開き、彼らが『変わる』というもう一つのテーマを織り込んだ。自分が変われば世界の見方は変わる。心の持ちようで可能性はぐんと広がっていく。そんなメッセージをおにころを通して届けたい」

Q今公演の見どころは

「群響と初共演するので、スコアをオケバージョンに書き直した。音の厚みが増しシンフォニックに仕上がっている。新町歌劇団に加え、新たに「高崎おにころ合唱団」を編成し団員の数も倍増。総勢約70人によるソング&ダンスいっぱいの躍動感あふれる舞台を楽しんで欲しい」

Q今公演で伝えたい思いは

「利己的でなく無償の愛を持って生きる。作品テーマが出演者や来場者の皆さんに浸透し、自分の人生で何が大切なのか、どう生きるべきかを考えるきっかけになれば嬉しい」

【何よりも歌が好き】

Qなぜ合唱指揮者になろうと

「ベルリン留学から帰国した当時、日本にはオケを振るスター指揮者がたくさんいた。王道を狙ってもその他大勢になってしまう。高校時代は合唱部で大学では声楽を学んだ強みを生かせるところはどこかと考えたら、必然的に合唱指揮者に行きついた。そして、何より歌が好きだったことも大きい。歌詞があり、その具体的な内容を音楽に乗せて表現するところに喜びを感じている」

Q合唱指揮者とは

「中間管理職のような存在でしょうか(笑)。上司である本指揮者の下で合唱団を束ねるリーダーとして、主張すべきところは主張し譲るべきところは譲りながら、より良い音楽を作り上げる能力が求められる。難しいからこそ面白い」

Q合唱指揮者の醍醐味は

「色んな人とコラボすることで多くの発見が得られ、発想の化学変化が起きて想像以上に素晴らしい音楽が誕生したりする。試行錯誤の末、本指揮者も合唱団も自分も本番で持てる力を最大限に発揮できた時の達成感は、他ではちょっと味わえない」

【言いたいことは言う】

Qどのように音楽を作るのか

「名盤を聴いてからスコア読みをする指揮者もいるが、僕は一切聴かない。巨匠の解釈をなぞるのではなく、自分の感性を信じてこれだという音楽を確立するのがクリエイティブな仕事だと思っている。音取りだけして、後は「あなた好みの色にして」と本指揮者に丸投げする合唱指揮者もいるが僕は違う。主張のない音楽からは何も生まれない。自分の主張を曲げずに作ったものは、例え本指揮者に路線変更されても、どこかにその信念は残りますから」

Q仕事上、大切にしていることは

「現場は良いものを作り出すための戦いの場。だから遠慮はしないし、言いたいことはハッキリ言う。相手が受け入れてくれる時もあれば、そうでない時もある。意見をぶつけ合うことで、多くのことを学べるし成長もできる。自分一人では自分を超えられない。だからこそ、お山の大将にならないよう気を付けている」

Q理想の指揮者像とは

「相手から最善のものを引き出せる指揮者。この人の下でやれば一番いいモノが出来ると思ってもらえるような、最高のサジェスチョンが与えられる指揮者が理想です。自分も相手も尊重しながら、愛を持ってより高いところを目指していきたい」

【ミュージカルを作りたい】

Q公式HPでコラム掲載しています

「誰に頼まれている訳でもないが、文章を書くのが好きで毎週更新している。著書『オペラ座のお仕事』も、このコラムがきっかけで誕生した」

Q本に込めたメッセージは

「仲間に対する愛、自分の仕事に対する愛‐おにころのテーマにも通じるが、常に『愛』を優先することが結果的に自己実現の最も近道になるということを伝えたい」

Q今後、挑戦したいことは

「『おにころ』『愛はてしなく』『ナディーヌ』と今まで3作品作っているが、もう1つミュージカルを書きたい。構想は既にある。父と娘の絆の物語でテーマは愛。作りたい気持ちは強いが時間がなくて、いつ取り掛かれるか全く分からない(苦笑)」

Q群馬の皆さんにメッセージを

「23日の高崎公演は初のフルオーケストラバージョンで、今までとはまた違った雰囲気になっている。舞台を通して、愛とは、生きるとは何かを感じて下さい。会場でお待ちしています」

文・写真/中島美江子

【プロフィル】Misawa Hirofumi
55年高崎市新町生まれ。国立音楽大声楽科卒業後、ベルリン芸術大指揮科を首席で卒業。99〜03年、バイロイト音楽祭の祝祭合唱団指導スタッフとして従事。01年から新国立劇場合唱団の合唱指揮者として、同劇場で上演されるオペラに関わっている。日本における合唱指揮者の第一人者。著書「オペラ座のお仕事」がある。東京在住。