心の根っこ[4月26日号]

今月3日に営まれた、ロック歌手・内田裕也さんの葬儀で喪主を務めた娘でエッセイストの内田也哉子さんの挨拶が、私の心に刺さっている。彼女は、父親が火葬され「ひからびた骨と化してもなお、私の心は、涙でにじむことさえ戸惑っていました」と胸の内を吐露しつつ、参列者へ謝辞を述べた。

昨年亡くなった希代の名女優・樹木希林さんを母にもち、破天荒な父親と過ごした時間は数週間にも満たないという彼女の言葉に、27歳で結婚するまで実家で過ごした平々凡々な私が強く引きつけられたのは何故なのか。

東京の高齢者施設で暮らす我が父は87歳。認知症を患い、家族と共有していたはずの記憶の多くを失った。一見不幸なこの事実は、私の中に巣食っていた、父娘間にありがちなわだかまりをも消し去った。今は互いに心の根に残る温かい部分だけで接するようになり、そう悪くない関係に落ち着いている。「このある種のカオスを受け入れることにしました」という也哉子さんの言葉が、今の自分の心に重なったのである。

さらには妻として母として、夫や2人の息子たちとの関係に思い至る。特に18歳と21歳の息子たちはあと数年で親元から巣立つだろう。時代の変わり目に訪れる明日からの大型連休を利用し、ささやかな家族旅行を予定している。数十年ののち、記憶が頼りなく薄れても、心の根っこで温かい感情を抱けるよう、有意義な家族の時間を刻みたい。

(野崎律子)