根拠[10月25日号]

試験貯水が始まって1週間がたったころ、長野原町の八ツ場(やんば)ダムに行ってきました。私の車に搭載されているカーナビはデータが古いので、ダム近くになると実際の道と情報が合わず、うろうろしてしまいました。地図を持っていかなかったのが失敗でした。道の駅に地図があって助かりました。

ダムを間近に見られる展望台は、平日でも多くの人でにぎわっていました。今後は、観光にひと役買ってくれるのかもしれません。順番を待って八ツ場ダムの全景を眺めました。そのときはまだ水は少なく、旧JR吾妻線の橋も姿を残していました。

かつて500世帯が暮らした土地が水底へと沈むのです。朝日新聞の取材に、地元の方々は複雑な思いを語ってくれました。90歳の女性は「寂しいね、人生を振り返るものがなくなっちゃう」。79歳の男性は「だんだん水につかるのを見るのも嫌だな」と。

私がダムを訪れた数日後、台風19号が群馬に大雨をもたらしました。八ツ場ダムは3~4カ月かけて満水位までためる予定でしたが、あっという間に満水となりました。

台風接近の際、八ツ場ダムが治水効果をあげたと話す政治家がいます。一方、たまたま容量に余裕があっただけで、様々な条件や手段の検証が必要だと指摘する専門家もいます。防災を考えるとき、都合の良いように考えず、根拠を持って慎重に判断することが大切だと思います。

(朝日新聞社前橋総局長 熊谷 潤)