桜と重ねる歴史[4月19日号]

見ごろを迎えた前橋市苗ケ島町の「赤城南面千本桜」で桜のトンネルを歩きました。平日を狙いましたが、満開のソメイヨシノを愛でる家族連れやカップルでいっぱい。21日まで桜まつりが開かれ、ライトアップで夜桜も楽しめます。

白い花を一斉に咲かせて一気に散るソメイヨシノは実を結ばず、自然には増えません。江戸時代終わりごろ、2つの種を交配して誕生。1本の原木から接ぎ木挿し木で増やされました。学校や並木などで咲く、あらゆるソメイヨシノは全て同じDNAを持つクローンです。

人の手でしか増えないからこそ、常に人間社会の営みとともにあります。日清日露戦争の勝利記念、高度成長期の宅地や市街地の開発、憩いの場や名所づくり……。それぞれに植樹の歴史があります。

海外にも多く根付き、友好の象徴となっています。有名なのは、米国ワシントンのポトマック河畔に1912年、東京市長が贈ったもの。毎春、盛大な祭りがあります。個人的にはスイス・ジュネーブのWHO本部に小さな桜並木を見つけ、それもまた関係者の努力によるものと聞き、胸が熱くなった経験があります。

赤城南面千本桜も、荒廃した山を緑化しようと旧宮城村民らが戦後に植えたと学びました。ただ、ソメイヨシノの寿命は60~70年。そろそろ老齢期です。いつまでも桜の名所でありたいと、隣地に37種約500本の桜や住民らの持ち寄った約15万株の芝桜が植えられました。これらの活動や維持管理もまた、住民らが継いでいるという成り立ちに、心ひかれます。

(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)