生き心地よい所[11月24日号]

自分にどんな価値があるのか、何のために生きるのか。考え悩んだ経験のない人は、どれくらいいるでしょう。私の場合、二十歳前後の数年間、ずっとその思いがまとわりつき、抜けだそうともがいていたのだと振り返ります。

様々な経験を経て「人は人、私は私」と割り切れて、楽になりました。しかし、それまでに重ねた行動は危なっかしい事だったろうと思います。止めもせず見守るのみだった親や周囲に感謝します。

自殺への関心を悪用した凶悪犯罪が起き、衝撃が広がるなか、ある本を再読しました。「生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある」(講談社)。著者の岡檀さんが、自殺の少ない徳島県旧海部町に通い、自殺リスクを緩和する要因について研究しました。

導かれた「自殺予防因子」は五つ。詳しくは同書を参照いただくとして、私に刺さった町の特性がいくつか。赤い羽募金が集まらない(他の人がいくら募金したかも気にしない)、年長者が威張らない、異端者が排除されず、色んな人がいたほうが良いと考える。人のつながりは緩い。悩みを相談することを恥と思わない――などです。

日本では、年2万人以上が自殺で命を失います。自殺を図る人は十倍以上おり、うつ病との関連も指摘されます。かの町では、うつ受診率が高く、早期に治療に入る。心配する隣人に受診を勧められ、腫れもの扱いされずに人間関係も続くのだそうです。これが生き心地のよい所。心に留めておきたい「文化」です。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)