筆に込める思い[3月8日号]

字は人なり、と言われると穴に入りたくなります。親の勧めで小学生の時は書道教室に通いましたが、素養も努力も足りず、上達しませんでした。中学に進む頃には、部活を口実に離脱。漫画雑誌の裏表紙で広告されていたペン習字の通信教育が気になりつつ、放置して今に至ります。

歌人や俳人、詩人らの書画を3千点以上所蔵する県立土屋文明記念文学館(高崎市)が、企画展「文学者の書―筆に込められた思い」を17日まで開催中です。著名な文学者45人の書画や原稿、手紙など約100点が並び、書について語る言葉や他者の評や回想も添えられます。

先々で書を求められる時代。気が進まない方々もいて、「短冊が届くと悪寒を催す」(斎藤茂吉)、「少し字を習おうと思いながら、結局そのまま」(菊池寛)という記述に親近感が湧きます。レタリングしたような朔太郎の書体は、装丁でもみせたデザイン感覚をうかがわせます。

同館学芸係の佐藤直樹さんの推しは、土屋文明。「自分で字が下手だ、僕のうまい歌が台無しになる、と言いながら、書は堂々としています」。確かに味のある作です。正岡子規が死の前日にしたためた句は、筆致も行間も心身を写すようで胸に迫ります。

休日に自宅を片付けていて、2年半前にいただいたはがきが目にとまりました。昨年暮れに亡くなった、小学1年の担任だった先生から。当時から憧れた美しい文字で、新任地での生活と職を激励してくれる内容です。人生の節目にいつもくれた直筆の便り。込めて下さった思いをかみしめました。

(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)