群馬高専特命教授 小島 昭 さん

炭や鉄、腐葉土入りの麻袋(=着卵材)を手にする小島先生。「カキ養殖を成功させ、震災復興の力になりたい」=前橋の群馬高専

水質浄化のスペシャリスト

誰かの後追いではなく、フロンティアスピリットを持って独創的な研究に挑戦していくことが大切

 

【科学の不思議広めたい】

「紙、炭、ゴミ、水、海と研究内容は全部『み』が付く。この歳になると同じ『み』でも髪に戻ってきまして、今はカツラの研究もやっているんですよ」 先月、みどり市で開かれた環境講座。軽妙なトークに会場のあちこちから笑い声がこぼれた。物質工学の専門家で水質浄化のスペシャリスト。この日は自らの研究実績を踏まえ、同市の環境や水質問題から、日本や世界の水事情までレクチャーした。講演は群馬高専の特命教授として重要な任務の一つで、年間50回以上こなす。方言=専門用語を使わず、「標準語」で語られる内容は分かりやすいと評判で県内だけでなく県外出張も多い。  講演同様、普及活動の一環として出前授業「サイエンスマジック」にも力を入れる。オレンジ果汁で風船を割ったり、水袋に何本も鉛筆を刺したり、液体窒素で凍らせたバラを粉々に砕くなど様々な実験を行う。こちらも年50回を超え、子供だけでなく保護者にも人気だ。「面白い、凄いと感じることで発見や感動が生まれる。何で、どうしてという疑問が主体的に学ぶ意欲に繋がっていく。理科嫌いをなくすため、群馬のニセでんじろうさんとして科学の不思議や楽しさを広めていきたい」

【ラブレターは突然やってくる】

桐生の糸屋通りに生まれる。生後6カ月で父親が戦死。市内の幼稚園、小学校、中学校、高校、大学に通い、今も生家に暮らす生粋の「桐生人」だ。大学では大谷杉郎教授のもと、実験台の拭き方から論文の書き方まで研究のイロハを徹底的に叩き込まれた。卒業後、群馬高専に勤務し30代前半から本格的に炭の研究をスタート。50代半ば、池に誤って落とした炭素繊維のヌメリから微生物の固着現象を発見し、赤潮やアオコの発生を抑制する水質浄化材を企業と共同開発した。
以来、炭の力で汚れた池や川などを次々と蘇らせていく。榛名湖や鶴生田川、中国蘇州運河まで、その数は国内外で500カ所以上。「炭博士」と呼ばれる所以だ。「繊維のヌルヌルに気付かなければ炭で水質浄化ができるという発想は生まれなかった。ラブレターは突然やってくる。それを受け取るには固定観念に縛られない柔軟性に加え、観察力や五感を磨く努力が欠かせません」

【震災復興に繋げたい】

炭と鉄を一体化させた水質浄化材は、電気などのエネルギーや薬剤を使わずに水辺を再生できるのが大きな特徴だ。さらに、魚を繁殖させる水草を増やすことも実証済み。2012年からはこれまでに培った技術を生かし、東日本大震災で被害を受けた岩手県山田町でカキ養殖による復興支援に励む。炭や鉄、腐葉土入りの麻袋(=着卵材)を養殖イカダにつり下げることで、カキの成長速度やカキ種となる卵の付着率を高める試みだ。佐渡の加茂湖や浜松の猪鼻湖では既に卵の定着に成功しているが、海流の激しい山田湾では思うような成果が得られていない。毎月のように現地を訪れ、三陸やまだ漁協と一緒に改善策を探っている。「いかに卵を増やし、稚貝の生産技術をどう確立していくかが課題。今夏には、カキの卵が付着しやすく剥がれにくい着卵材を使った実験を始めます。今度こそ地元の期待に応えられるような結果を出し、震災復興に繋げたい」

【常に何のためにを意識】

全国の高専に先駆け、産官学共同研究拠点となる「地域共同技術開発センター」や企業150社との連携組織「群嶺テクノ懇話会」を立ち上げるなど活躍は炭研究だけにとどまらない。企業との共同研究で商品化したものは、医療や環境、土木建築分野など多岐にわたり権利化した特許は約50件に上る。一連の取り組みは高く評価され、科学技術振興機構(JST)が贈る今年度の「イノベーションコーディネーター賞」に輝いた。受賞は県内初の快挙。「常に誰のために、何のためにを意識している。口先だけの産官学では世間様は相手にしてくれません。研究費は血税。取り組むからには『ナンボ』となる成果を出さないといけない。このことを肝に銘じて実行してきました」

【強い群馬を作りたい】

研究に際し教訓にしている言葉がある。「日陰にいろ。そうすれば、 やがて太陽が差し込んでくる」 大学時代の恩師の教えだ。「とかく人は陽の当たる方へ行きたがるが、それでは一生陽は当たらない。誰かの後追いではなく、フロンティアスピリットを持って独創的な研究に挑戦していくことが大切。日陰にいる時はじっくり充電し、陽が当たったと思ったら全力で走るんです」
研究、復興支援、産官学連携、出前授業、テレビ・ラジオ出演など、精力的な活動の原動力になっているのが「強い群馬を作りたい」という熱い思いだ。産業振興と雇用創出に取り組み、群馬で育った子供たちが将来活躍できる環境を作ることが自らの使命と感じている。「ありがたいことに、やりたいこと、やらなきゃいけないことがまだまだたくさんある。休んでいる暇はないですね(笑)」 炭博士は大きな志を胸に、これからも全国各地を飛び回り人々に夢と希望を与えていく。

文・写真:中島 美江子

【プロフィル】Akira Kojima
43年桐生生まれ。群大工学部卒業後、68年から群馬高専に勤務。09年から特命教授として普及活動や外部資金調達などに奔走。長年、炭研究に取り組み水環境保全の分野で大きな成果をあげている。「炭素‐微生物と水環境をめぐって」などの著書があり、来月に新刊「水再生・活性化への挑戦」を出版予定。

 

〜小島昭氏へ10の質問〜

もっと、もっと、がモットーです(笑)

—好きな食べ物は飲み物

納豆。毎朝欠かせません。特に好きなのが下仁田納豆。実は教え子だった南都隆道君の会社で作っている納豆なのですが本当においしい。高級なので、めったに食べられませんが(苦笑)。飲み物は
緑茶。毎日飲んでいます。

—リフレッシュ法は

行き帰りの通勤時間がリフレッシュタイム。電車に乗っていると、いやなことや大変なことがあっても忘れちゃう。駅から自宅まで10分くらい歩きますが、それも良い気分転換になっています。

—最近、うれしかったことは

昨年末に3人目の孫が生まれたことでしょうか。本当にかわいい。ジジバカです。

—長所短所

「鈍」なところが、長所でもあり短所でもある。人から何か言われても、しばらくしてから「ああ、ばかにされたのか」って気付くといった感じです(苦笑)。

—影響を受けた人は

群大の大谷杉郎教授と京都大の小門純一教授、群馬高専4代目校長の桑形昭正先生。3人は私の生き方を変えてくれた恩師です。大谷先生からは研究や姿勢について、小門先生からは高専とはどうあるべきか、桑形先生からは群馬高専が地域とどう連携していけばいいのかを教えてもらいました。

—座右の銘は

「世の中で一番楽しく立派なことは、一生涯を貫く仕事をもつことである」 福澤諭吉の言葉です。ラッキーなことに、70歳になっても好きな仕事をさせてもらっています。あとは、恩師・大谷杉郎先生の「日陰にいろ」ですね。

—群馬のイチオシは

山でしょうか。群馬高専の屋上からは赤城、榛名、妙義といった上毛三山や、浅間や武尊、草津白根などが一望できます。北風に吹かれながら上州の山々をぼ〜っと見ていると心が安らぎますね。

—モットーは

もっと、もっと、がモットーです(笑)。現状に満足できない。だから、じっとしていられないんです。ガタガタ何かしら動いている。欲張りなんでしょう。

—愛用しているものは

アルミの弁当箱=写真上。15歳の時から50年以上使っています。包むのは決まって地元紙の「桐生タイムス」。毎日、学校に持ってきています。それとホンダのカブ=写真下。こちらも新前橋駅から高専まで毎日、通勤で使っています。もう、かれこれ4台目になるかな。

—家族構成は

妻と長女の3人暮らし。あと、東京に息子家族がいます。

 

取材後記
特命教授という響きには何やら「正義の味方」のようなカッコ良さがある。主な使命は群馬高専のPR活動、外部資金調達、産官学連携推進とか。講演や出前授業は年間100回以上に及び、研究費の獲得目標は年間3000万円。企業との共同開発も、結果が求められる「真剣勝負」だ。炭研究への情熱も並々ならないものがある。
全ての活動の根底にあるのが、「社会や人々の役に立ちたい」という思い。話を聞いているうちに、ますます小島先生と「正義の味方」のイメージが重なってきた。一方で、「炭は隅におけないやつなんです」「研究テーマを紙から炭に変えた時、白からお先真っ暗になっちゃった」など、時折ダジャレを繰り出す。そのユルさもいいのだ。これからも、世のため、人のために活躍する「特命教授」から目が離せない。