義足のアーティスト 片山 真理 さん

アーツと福祉の垣根超え活躍

両足義足のハイヒール女を見て、『もっと素直に生きていいんだ』と思ってもらえたらうれしい

 

【関わりたいから作る】

壁を覆うコラージュ、床に転がる義足、電飾付きの鏡−先月、アーツ前橋が開設したアトリエ「竪町スタジオ」に1カ月間滞在し、愛するモノで埋め尽くした私小説的空間を作り上げた。国内外で注目を集めるアーティスト。今まで自らの身体をテーマにした作品やポートレートなどを発表しているが、滞在制作は初めてで、戸惑いや驚きの連続だったという。「『何してるの』と聞いてくる人に一から説明しなければならない。自分は何者か、なぜ作るのかを突きつけられる毎日。そのやり取りをするうちに、自分はやっぱりアーティストなんだ、人と関わるために作っているんだと再確認できた」 滞在中のテーマは「you’re mine」。ワークショップやトーク会も行い、コミュニケーションから生まれた軌跡を県都にしっかりと刻み込んだ。

【好きなことをしていい】

埼玉生まれ群馬育ち。生まれつき両足の骨の一部がなく9歳で両足を切断。左手は裂手症で2本指だ。小中学時代いじめにあい、高校に入っても周囲から孤立。勉強に没頭する一方、「何とか人と関わりたい」と自らHPを立ち上げ、絵や文を発信するようになる。表現する喜びに目覚めたのは高2の頃。HPを見た服飾専門学校生からショーに誘われモデルとして参加。装飾を施した義足とミニスカート姿が喝采を浴びる。「どうして自分は絵を描いたり裁縫するのか分からなかったが、ファッションに人生捧げちゃってる人と出会い理屈抜きにやりたいこと、好きなことをしていいと気付いた。義足がアートとして評価されたのも衝撃的でしたね」 ショー出演後、義足をモチーフとした作品が全国公募展で奨励賞受賞。導かれるようにアートの世界へと足を踏み入れていく。

【テーマは自らの身体】

大学時代は作品制作にのめり込む。オブジェ、ドローイング、写真、コラージュ−表現方法は多岐にわたるがテーマは一貫して義足を中心とした自らの身体。義足は成長に合わせ作り直すため、そのつど身体に慣らしていく訓練が必要だ。義足の重み、膝を曲げるタイミング、重心や目線の位置など全感覚をゼロから再構築しなければならない。その確認作業と作品制作は似ているという。「足に対するコンプレックスは強いが、受け入れないと歩くことも外に出ることもできない。義足をなじませるように、執ように身体をかたどるのは自分の欠落部分やそれらを取り巻く社会と向き合うため。究極の自己愛や孤独は他者なしにはあり得ない。自分の輪郭をなぞる線は必ず他者や社会へ繋がっていくと信じています」 大学院進学後はセルフポートレートも撮り始めるが、義足にこびる訳でもウリにする訳でもない。個人的な身体を起点にした作品は、見る人に様々な解釈を委ねる豊かな表現になっている。

【もっと素直に生きていい】

アートに加え歌手やモデル、執筆、講演など多方面で活躍するが、その名を全国区にしたのが音楽活動をきっかけに誕生した「ハイヒールプロジェクト」。「ヒールを履かない奴は女じゃない」 客席から投げつけられた言葉にキレ、無理だと諦めていたヒールを履いてライブ出演するプロジェクトを11年に始動。海外から部品を取り寄せ義足を作り、同年7月の主催イベント「切断女の夜」で目標を達成。「ヒールが履けたことで視界も気持ちも広がり何でも出来ちゃうぞって気になりました」

自分のための挑戦は終わったが、障がい者を取り巻く厳しい現実を知りプロジェクトを続行。講演やライブ、路上で義足のハイヒール姿を人目にさらし日本が抱える社会問題を訴える。「障がい者もお洒落したいのに義肢装具の数は少ないし、そもそもそんな気持ちを言えない空気がある。だから、両足義足のハイヒール女を見て『もっと素直に生きていい』と思ってもらえたらうれしい。目指すのは誰もが自立すること、憧れることが許される自由な社会です」 自らを広告塔とした活動は年々広がり、障がい者はもちろん多くの人に勇気や希望を与えている。

【心のままに世界を闊歩】

モデルを務めた写真集出版、映画やテレビ出演、滞在制作など今年に入り多忙を極める。今月号の文芸雑誌「文学界」で連載が始まり、今月11日からは京都で世界的な現代美術家・小谷元彦氏との共同作品を展示中。来月は出演したNHKドラマ放映と東京での個展、来年2月には再び前橋での滞在制作が控えている。オファーが殺到しているが本人は至ってクール。舞い上がることなく与えられた仕事を淡々とこなす。気負いのなさは家訓「出来ることだけすればいい」によるところが大きい。「母の口癖で、その言葉通り出来ることだけしていたら諦めていたことも出来るようになり夢がどんどんかなっていった。家訓に感謝です」

次なる野望は「世界進出」。各国のアートや福祉事情を吸収しながらプロジェクトのバージョンアップをもくろむ。「やりたい」気持ちに逆らわずに生きてきた「両足義足のハイヒール女」は、その姿を「見せつけながら」アートと福祉の垣根を超え、心のままに世界を闊歩していく。

写真・文/中島美江子

【プロフィル】Mari Katayama
87年埼玉生まれ、群馬育ち。9歳で両足を切断。2012年東京藝大大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。同年、若手アーティストの登竜門「アートアワードトーキョー丸ノ内グランプリ」受賞。13年に「あいちトリエンナーレ」に招待され作品発表。現在、作品制作のほかに「ハイヒールプロジェクト」として歌手、モデル、講演、執筆など多岐に渡り活動している。東京在住。