芸術の秋[10月27日号]

小雨降る秋の日、東京・上野に足を伸ばし、美術展めぐりをした。第一の目当ては東京国立博物館で開催中の特別展「運慶」だ。日本美術史上最も有名な仏師・運慶による現存作品31体のうち22体が一堂に会するのだから、これを見逃すわけにはいかない。

行きの新幹線の中、スマホで同展公式HPを開くと予想外の面白さに驚く。群馬出身の美術史好きアイドル和田彩花さんほか、イラストレーターや科学者、芸人らがそれぞれの視点で語るコーナー、クイズやダンス動画など、楽しみながら理解を深める仕掛けが満載。話題の展示は「みせかた」にも工夫があると感心した。

運慶彫刻の魅力は、今にも動き出しそうな躍動感、眼に水晶をはめ込み光を宿す「玉眼」の手法、実在の力士や武将をモデルにしたリアルな筋肉の表現とされる。しかし間近で眺めると、頭髪の一筋一筋は細やかに刻まれ、衣の襞は柔らかく波打つ。像を彩る鮮烈な色彩と文様、繊細な装身具はため息が出るほど優美である。筋骨隆々の体躯は確かに写実的なのだが「俗」を感じさせる現実味はない。衣を揺らす風は別次元から吹き、像の前に立つ私を異世界へと誘うかのようだった。

激動の時代に生きた運慶は、苦しみの中にある人々を救うべく、仏教の崇高な精神世界を表現し続けたのだろう。800年の時を超え放たれる圧倒的なエネルギーを胸いっぱいに吸い込み、芸術の秋を堪能した。心の洗濯終了。また今日から頑張ろう。

(野崎律子)