落語家 三遊亭 竜楽 さん

今月12日の大七寄席に出演した三遊亭竜楽さん。
「笑いで商店街を元気にしたい」=前橋の弁天通り

7カ国語操る国際派落語家

『落語の伝道師』として、ゲームや漫画、アニメとは違う大人のクールジャパンを世界に発信していきたい

 

【笑いで商店街を元気に】

「四万温泉とかけてヨーロッパと解く。その心は、イーユー(いい湯〜)」 先月30日、「第5回なかんじょ寄席」で大喜利の司会と高座を務め、会場を笑いの渦に包んだ。伯父夫婦が住んでいた中之条町とは幼少時より縁があり、今年1月には町の観光大使にも任命された。今月12日には、郷里・前橋の弁天通り商店街で「大七寄席」に出演。巧みな話芸でお客を大いに魅了した。大七寄席は4年前からスタート、今回で13回目を数え、次回は8月30日に行われる。地元で精力的に活動する一方、欧州を中心に海外公演を行う国際派落語家としても知られる。「ヨーロッパに行くと、自分たちの文化は自分たちで守っていこうという意識を強く感じます。それは街のアイデンティティを形成するのには文化が欠かせないと知っているから。伝統芸能で人を呼び込み、笑いで商店街を元気にしたいですね」

【縁もゆかりもない世界へ】

100年以上続く老舗茶舗の長男として生まれる。中学生の時、父親が購入した古今亭志ん生の全集テープを聞き、落語に開眼。高校では落語本を読みふけり、大学時代は寄席に足繁く通った。卒業後、弁護士を目指し司法試験の勉強に励むが、気分転換に聴いた先代・三遊亭円楽の芸に衝撃を受け27歳でその門を叩く。敷かれたレールから外れ縁もゆかりもない世界へ。「恐怖はあったが、それ以上に人生をリセットしたいという思いが強かった。弟子入りした翌朝、限りない自由が目の前に広がっているような、今までにない開放感を感じたのを覚えています」

【独自のスタイルを模索】

円楽師匠に弟子入りしたのは、芸の力量もさることながら落語家という枠を超えた「人間円楽」のスケールに惹かれたから。当時、円楽はテレビ番組「笑点」に出演、落語家タレントブームを巻き起こすなど既に売れっ子噺家として確固とした地位を築いていた。入門後は礼儀作法に始まり、身振り手振りや口調、そして仕事への取り組みまでみっちり叩き込まれた。遅いスタートながら、「落語裁判」「女子大生落語会」などユニークな企画を立て続けに発表。メキメキと頭角を現し入門8年目の92年に真打昇進を果たす。古典落語を演じる一方、自分独自のスタイルを模索し続け08年に外国語落語へたどり着く。「長い間悩みました。寄席から飛び出しテレビという新天地を切り開いた円楽のように、自分にしかできない落語を見つけたかった。海外への挑戦を師匠が高く評価してくれたのが何よりうれしかったですね」

【言葉で説明しすぎない】

08年のイタリアを皮切りにフランスやドイツなど欧州で毎年、字幕・通訳なしの現地語口演を行っている。操る言葉は英語、イタリア語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、ポルトガル語、日本語の7カ国語。知ったかぶりの隣人に腐った豆腐を食べさせる「ちりとてちん」、酒好きの親子が禁酒を誓う「親子酒」、気長と短気を対比させて演じる「気の長短」など、万国に通じる噺を厳選し演じている。表情、仕草、間合いなど高度な芸が要求されるものばかり。「イタリアなら派手に、フランスならディテールにこだわるといった具合に演出は国ごとに変えますが、共通しているのは言葉で説明しすぎないこと。聞き手が豊かなイメージを自由に創造できる環境を整えてあげることが大切です。その方が覚えるのも楽ですしね(笑)」

【新しいことにチャレンジ】

独り芸である落語は、演じ手の人間の広さや視点の深さなどが問われる。そのため、敢えて苦手なことや興味のないことをやってみたり異分野で活躍している人と関わるようにしている。趣味も狂言や歌舞伎、文楽、茶道、映画鑑賞と幅広く、師匠に負けず劣らずの博識ぶり。朝日新聞夕刊の連載コラム執筆を始め、テレビ出演やラジオパーソナリティー、大学講師など、現状に満足せず常に新しいことにチャレンジし続ける貪欲さが活躍の場を広げてきた。外国語で録音した落語CD「三遊亭竜楽の七か国語落語」や古典落語の魅力を綴ったエッセイ「らくごよみ」など著作物も多い。「狭い世界に閉じこもっていたら芸や人間力は磨かれません。実際、外国語落語も友人に誘われた茶道がきっかけで生まれました。だから、気が向かないことも1度はやってみることにしています」

【ヨーロッパに落語一門を】

6月1日、高崎で開かれる「葡萄屋寄席」に出演後、ヨーロッパ公演に旅立つ。約1カ月半の滞在予定で、フランスでは世界の演劇人の目標地点と言われる「アヴィニョン演劇祭」に初参戦する。「日本の伝統話芸が世界でどこまで通用するのか。まさに真剣勝負です。『落語の伝道師』として、ゲームや漫画やアニメとは違う大人のクールジャパンを世界に発信していきたいですね」
「ヨーロッパに落語家一門を立ち上げる」という壮大な夢を胸に秘め、今夏、「完全アウェー」に身一つで乗り込んでいく。

文・写真:中島 美江子

【プロフィル】Ryuraku Sanyuutei
58年前橋生まれ。中央大学法学部卒業後、85年に三遊亭円楽に入門。92年真打ちに昇進。「にっかん飛切落語会若手落語家努力賞」などを受賞。毎年行っている海外公演は7年目を迎え、その数は100回に達する。昨年末、「落語歳時記 らくごよみ」(朝日文庫)を出版。東京在住。

 

〜三遊亭竜楽氏へ10の質問〜

前橋の良さは義理人情に厚いところ

—長所短所は

長所は嫉妬心があまりないところでしょうか。ただ、表現者として嫉妬する人の気持ちが分からないのは短所でもありますね。嫉妬心があればもっと努力したのかも(苦笑)。

—最近、印象に残っているヨーロッパ公演は

この6月で4年連続になるライプツィヒ大学での公演です=写真は昨夏。観客は学生と一般人が百数十人。「ドイツにコメディアンはいない」という俗説を吹き飛ばす笑いには毎回驚かされます(笑)。

—尊敬する人は

影響を受けた人はたくさんいますが、最も尊敬する人は先年亡くなった五代目円楽師匠ですね。芸はもちろんのこと、礼儀作法から落語家としての生き方まで全てを教わりました。本当に大きな存在です。

—前橋のお気に入りは

広瀬川沿いの景色。生まれ育った前橋の原風景ですが、本当に心が安らぎます。仕事でも岩手の北上やイタリアのフィレンツェなど川沿いの都市とは縁が深いんです。あと、前橋の良さは空気がうまいところと義理人情に厚いところかな。

—マイブームは

ウオーキング。2駅や3駅は歩きますね。おかげで痩せましたし体力もつきました。

—リフレッシュ法は

25年前から毎朝行っている「西野流呼吸法」。
由美かおるさんの師匠で、西野バレエ団の創始者・西野晧三先生が創始した健康法ですが、良い気分転換になっていますね。月数回は西野先生の教室で、直接教えを受けています。

—最近、感動したことは

パリにある「テアトル・ドゥ・ジムナーズ」のオーナー夫妻から、「ここで落語をしてほしい」とオファーされたこと。200年以上前に建てられた劇場で、バルザックやジャン・コクトーが通い、「パントマイムの神様」マルセル・マルソーもその舞台に立っています。「極限まで凝縮された表現に感動した」と言われた時は、本当にうれしかったですね。

—習慣は

外国語の発音とイントネーションの練習。移動時間などスキマ時間を利用しています。主に力を入れているのはフランス語とドイツ語。6月末から2カ国で公演をするので必要に迫られています。

—家族構成は

妻と長女の3人家族。海外公演が数か国に渡る場合は一緒に行きます。娘は生後10カ月から連れて行っていますが、2才から航空券代がかかるようになり、収支を大きく脅かしています(笑)。

—愛用の仕事道具は

「竜楽」の名入れ扇子と手ぬぐい=写真。特に、扇子は侍でいえば刀ですから肌身離さず持っています。手ぬぐいで大事なのは、柄と色合い。演目に合わせて他の落語家さんたちから頂いた品を使うことも少なくありません。

取材後記
「噺家には技芸もさることながら人間力が必要です」 取材中、ことあるごとにこう語った。芸に対する姿勢はストイックそのもの。「なかんじょ寄席」「大七寄席」と地元公演を続けて見させてもらったが、流暢な話芸にすっかり魅せられた。字幕・通訳なしの現地語口演という、まさに前人未踏の挑戦を続けているが「誰もやろうと思わなかっただけで、誰でもできますよ」と至って謙虚。恐るべし人間力だ。欧州以外の国からもオファーが次々と舞い込んでいるという。日本が誇る伝統話芸「落語」で世界制覇を目指して欲しい。