「四位一体」で取り組む「のら猫」問題

行政+地域+ボランティア団体+獣医師がタッグ

動物愛護週間 20~26日

空前のペットブーム。一方、時に人間社会にとって「悩みの種」となることもある「猫」。飼い主のいない猫(のら猫)にとっても、地域住民にとっても最善と言われる方法が「TNR」。のら猫を捕獲(Trap)して不妊去勢手術を施し(Neuter)、元の場所に戻す(Return)活動だ。このTNRに欠かせないのが、行政、地域、ボランティア、獣医師の協力と連携。四者がガッチリと手を取り合う理想的な活動が、藤岡市で始まっている。20日から動物愛護週間。全国的にも珍しいという取り組みを取材した。(飯塚ゆり子)

今年度から本格稼働

「TNRは実施して終わりではない。猫と住民が共存できる社会のためには、その後の地域住民との関わりが大切」と獣医師の亀田博之さん

「猫の手術かい?」 道行く人が親しみを込めた口調で捕獲器を用意するボランティアメンバーに話しかける。藤岡市のある地区では、8月上旬と下旬、9月中旬にもTNRを実施。のら猫57匹が手術を終えた。こうすることで、のら猫を増やさず一代限りの命を全うさせられると同時に、望まれない命の誕生も防げる。
藤岡市が、のら猫の対策に本格的に乗り出したのは昨年度。きっかけは、のら猫の糞尿被害に悩む地域住民からの声だった。避妊去勢手術の助成制度がない同市で、効果的な方法を模索する中で出合ったのが、県内で犬猫の「収容ゼロ」を目指して2007年から活動を続けるボランティア団体「NPO群馬わんにゃんネットワーク」(高崎・飯田有紀子理事長)だ。飯田理事長は、「現時点でのら猫にも地域住民にも最善の方法」としてTNRを提案した。手術の受付は群馬わんにゃんネットワークが、実施は県内初の野良猫避妊去勢専門病院が担当。行政、地域、ボランティア団体、獣医師による「四位一体」の体制が整い、今年度からTNRが本格的にスタートした。

安定した地域の証明

藤岡市環境課では、該当地区の区長や班長、続いて住民を対象にした説明会を数回に渡って開き、周知徹底に努めた。会場で配布する資料やチラシのひな型を作るなど細かな部分にわたってバックアップ。円滑な活動を促進させた。
地域では、区長が中心となって住民を対象に実態調査を実施。寄せられた情報をもとに環境課がのら猫の分布図を制作した。それに従ってボランティア団体が捕獲器を設置。のら猫を捕獲して病院に運び、獣医師が手術を実施する。公益財団法人どうぶつ基金(兵庫県芦屋市)が発行する無料不妊手術チケットを使うため、手術費用はかからない。怪我の治療など必要な治療も同時に実施。その費用は愛護団体が負担している。
手術が終わった猫は、耳の先端をV字にカットし、元にいた場所に戻す。カットされた

耳が桜の花びらのように見えることから、手術済の猫は「さくら猫」とも呼ばれる。さくら猫は、一代限りの命を尊重されていると同時に「この猫は行政、地域、ボランティア団体、獣医師によって支えられている」という証。さくら猫が住む地域は、四者が協力しあう安定した地域であるという証明でもある。しかし「ここまでしっかりと手を取り合えるケースは稀」と飯田理事長。それだけに県内外から大きな注目が集っている。

 

のら猫問題は環境問題

「のら猫が増えたと感じるのはここ3~4年。猫は可愛いけれど、糞尿は不衛生だし道路でひかれる姿を見るのは辛い。TNRは望ましい活動」とホッとした表情を見せるのは、長年この地に住み続けている70代女性。同市環境課の江口雅人さんは「長年法律で保護されてきた猫に対しては、苦情があってもその対応には限界があった。TNRは救世主的な存在。猫嫌いな人からも支持が得やすい」と言う。
「のら猫の問題は、環境問題」と飯田理事長。のら猫問題を「地域の環境問題」として捉え、それぞれが協力して、のら猫を適正に管理しながら猫たちに一代限りの命を全うしてもらい、誰もが暮らしやすい地域をつくるのが目標だ。
そこに、相手を慈しむ気持ちが加われば防犯、防災、高齢者福祉など、地域に眠る問題の掘り起しにもつながる。江口さんは「飼い主のいない猫が減ったと感じるには時間を要するが、猫を見る住民の目は明らかに変わり、この取り組みに手応えを感じています」と力強く語る。なお、同市では今後もこの活動を継続していくという。

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