やり過ごす[2月10日号]

1カ月以上、声がかすれて思うように話せない。昨年の甲状腺手術時に全身麻酔をしたのがきっかけで、喉にポリープができてしまったのだ。「森進一みたい」とつぶやく人もいるが、会う人は皆、心配してくれた。
当然、仕事にも支障をきたした。全国大会決勝戦で敗退した前橋育英サッカー部を取材した時は、無念さに声を詰まらせるメンバーも、質問する自分も、小さな声でボソボソ。後でレコーダーの録音音源を再生してもよく聞こえず、ノートの記録だけでとても困った。
今までは大きな声で笑ったり、時にはカラオケをする生活が普通だったが、今はそれもかなわない。朝起きて、「あー、いー」と発声するも、聞き覚えのある自分の声にはなかなか戻らず対人関係も消極的になる。
訪問先で悩みを打ち明けると、初対面の男性担当者は「オレも転んで前歯おっかけちゃって、あまり話せない。あんたもあまり気にするな」と。思わずくすっと笑いそうになったが、心に響く一言をマスク越しに投げかけてくれた。素朴な言葉が、かえって沁みてうれしかった。
それから一気に心が明るくなった。自分だけで暗くなるのは、やめだ。できるだけ体を休め、笑顔でやり過ごすことに決めた。
今月になり、声がかなり回復してきた。やり過ごした先は、いつもの楽しい日常に繋がっていた。もう少しだ、春よ来い。

(谷 桂)

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