ヘアメイクアップアーティスト 冨沢 ノボル さん

「東京のシンボルですよね」と冨沢さん=東京タワー

一瞬のファンタジーを創造

自分の役割は、見られる人と見る人に幸せを運ぶメッセンジャーだと思っています

 

【多くのスターを担当】

きゃりーぱみゅぱみゅ、AKB、沢尻エリカ、松任谷由実、桃井かおり‐新鋭から大御所まで多くのスターを担当。確かな技術と独創的なアイデアは各界から絶大な信頼を集めている。「髪や顔に直接触れながら色々な話をしますから、その中で好きなものやこだわりが見えてきます。一流の人の共通点は優しくて余裕があって発想力豊か。仕事しやすい環境を作ってくれるので、こちらも最高のパフォーマンスをしなければいけない。互いに刺激し合いながら新たな美を発見していくプロセスは、刺激的で何年やっても緊張しますね」

【全てがプロフェッショナル】

織都桐生に生まれる。母方の実家が織物業だったため幼少時からファッションに興味を持つ。父親の転勤に伴い小学校から中学まで沼田で過ごすが、高校で再び桐生に戻る。10代後半、ディスコに通いつめ音楽やファッションなど最新カルチャーを貪欲に吸収していく。そんな中で出会った美容師の影響からヘアメイクの世界へと足を踏み入れる。都内の有名ヘアサロンで働き始めるが、日を追うごとに求める仕事がクリアになってきた。「自分がしたいのはデイリーのヘアケアでなく一瞬のファンタジーの創造だと気付いたんです」
美容師を辞め河野ミツル氏に師事する。師のまわりに集まってくるのは超一流のクリエーターばかり。才能とパワーがぶつかりあう現場で、必要とされるレベルの高さを肌で感じながら彼らに必死でくらいついていった。「技術的なことや仕事に対する姿勢、業界そのものを一から学ばせてもらった。全てがプロフェッショナルでゴージャズでしたね」
25歳で独立。ヘアメイクの仕事をしながら、自身の作品作りにも励む。一連の活動がアートディレクターの信藤三雄さんの目に留まり、ピチカート・ファイブなど多くの有名ミュージシャンと仕事をするようになる。 28歳で渡米。流行の最先端に身を置きながら独自の感性やセンスを磨いていく。「色んな人種がいて人々の価値観も全く違う。でも、住んでみて分かったのは肌の色が違っても結局、みんな同じ人間ってことです」

【毎回毎回が真剣勝負】

帰国後、雑誌や広告、CM、コレクション、舞台など活躍の場を精力的に広げていく。最近は三池崇史監督や蜷川実花監督らの話題作に立て続けに参加。「ヘルタースケルター」では沢尻エリカ演じるモデルの完璧な美をスタイリッシュな造形とビビッドな色彩で再現、「忍玉乱太郎」では愛らしい顔かたちから奇抜な髪型までアニメそのままに創り上げた。
現場では限られた時間の中でクライアントの意向を汲み取り、要望以上のものをカタチにしなければならない。モデルの美しさや本質を一瞬で見抜く力も求められる。「一つとして同じ現場はないので、毎回毎回が真剣勝負。イメージ通り決まった時は超気持ち良いですね」
ヘアメイクはアイラインがコンマ1ミリ違うだけで顔全体の印象が変わってしまう程デリケートなもの。繊細さやバランス感覚は欠かせない。一方、他人にどれだけ関心が持てるかも大切なスキルだ。「とにかく人が好き。常に興味を持って人と向き合うようにしている。僕のフィルターを通る事で、本人も気付いていない魅力を引き出すことが出来る。皆がハッピーになる作品を作るには自己満足ではダメですから」

【日々を楽しく生きる】

自分の中から湧き出てくるイメージやメッセージをビジュアル化させ、非日常の世界を華麗に大胆に演出するヘアメイクアップアーティスト。第一線に居続けるには新しいアイデアを次々生み出さなければならない。最先端のファッションや流行のチェックはもちろん、アートを観たり音楽を聴いたり本を読むなどインプットは必須だ。「それに加え普段何気なく見聞きしたものが、ある日突然ひらめきに変わっていく。シンプルだけど日々楽しく生きることが良い仕事に直結していくと思う」
本業の傍らDJとしても活動。今春、元ピチカート・ファイブの野宮真貴さんの伊香保ライブに出演しド派手な衣装とパフォーマンスで会場を沸かせた。「大好きな野宮さんと一緒に地元の舞台に立てて幸せでした。これからもヘアメイクや音楽活動を通して群馬を盛り上げていきたい」

【マルチな才能を発揮】

多方面でマルチな才能を発揮しているが今後やってみたいことは2つ。一つは作品をまとめて個展を開くこと。もう一つは同世代以上の女性向けヘアメイク教室の開講だ。「若作りではなく80代まで等身大のまま輝けるようなヘアメイクを伝授したい」
現在、多忙を極めるが明け早々にも大仕事が控えている。岸谷五郎と寺脇康文が主宰する演劇ユニット「地球ゴージャス」の公演「クザリアーナの翼」のヘアメイクディレクションを担当。出演は中村雅俊やジャニーズの風間俊介ら超豪華な顔ぶれだ。
商業ベースの仕事だけでなくオリジナル作品もコンスタントントに発表。創造への情熱はとどまるところを知らない。「僕らの仕事はエンターテインメント。自分の役割は、見られる人と見る人に幸せを運ぶメッセンジャーだと思っている。ヘアメイクって愛がないとできないですから」
美の伝道師は飽くなき好奇心とインスピレーションを駆使し、これからも変わらず愛と喜びに満ちた夢の世界を届けていく。

文:中島 美江子
写真:高山 昌典

【プロフィル】Noboru Tomizawa
67年桐生生まれ。雑誌や広告に加えコレクションや映画のヘアメイクディレクションなど多方面で活躍。ネイル&ピアスのブランド「RHYTHM」、アイラッシュのブランド「Maggie May×PRO」のディレクションも手掛けている。東京在住。

 

〜冨沢ノボルさんへ10の質問〜

好きな言葉は「ネバーギブアップ」

—座右の銘は

好きな言葉は「ネバーギブアップ」。自分を信じて、諦めない気持ちが大切です。

—モットーは

「真っ白な気持ち」で人と会うことかな。打ち合わせの際も、なるべく先入観を持たずフラットに臨むことを心掛けています

—リフレッシュ法は

昼寝。時間を見つけては、昼寝してます。短い時間で、体も気持ちもリセットできますから。シエスタスタイルですね。

—好きな食べ物飲み物は

お寿司が大好き。家でも外でも本当に良く食べます。飲み物はシャンパンですね。

—マイブームは

フラワーアレンジメント。花に触っていると、色んなインスピレーションが沸いてきます。

—これからやってみたいことは

やはり日本人ですから、富士山に登ってみたい。80歳で世界最高峰のエベレスト登頂に成功した三浦雄一郎さんの影響を大いに受けています(笑)。

—最近うれしかったことは

今日のインタビューでしょうか。自分のルーツである群馬県が大好きなので、地元の誌面で取り上げてもらえるのは凄く光栄です。

—尊敬する人は

師匠だったヘアメイクアップアーティストの河野ミツル氏とアートディレクターの信藤三雄さん。
先見の明があって、時代が求めているものをチョイスするセンスは本当にスゴイものがある。

—趣味

DJとしてパフォーマンスをすることです。

—愛用の仕事道具は

デンマン社のカラフルなヘアブラシ。ニューヨークの天才メイクアップアーティスト、ケヴィン・オークインがプロデュースしたフェイスブラシです。ヒョウ柄ドライアーもお気に入り=写真。これで、アーティストの草間弥生さんもブローしましたね。最後にこれは宣伝になりますが、僕がプロデュースしている「まつ毛シリーズ マギーメイプロ」、すごく良いので是非使ってみて下さい(笑)。

 

取材後記
「金と赤、良いんじゃないですか、これ!」 東京タワーでの撮影時、ノリノリのハイテンションでポーズを決めてくれた。エンターテイナーという言葉がこれ程ピッタリくる人もいないだろう。周囲を笑顔にするハッピーオーラが半端ない。一方、話す内容は深く鋭い。「どんな人にも必ず良いところがある」「人と会う時は真っ白な気持ちで臨む」「女性は全身、男性は心をメイクする」‐名言の数々に納得。軽さと重さ、しなやかさと硬さ‐絶妙なバランス感覚で、これからも見る人を「アッ」と驚かせてくれるだろう。

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