リオパラリンピック水泳日本代表監督 峰村 史世 さん

「パラリンピックの本番では、選手一人一人が持てる力を出し切り、最高の結果を出せるようにしたい」と意気込む峰村史世監督=高崎の慈眼院

「オリンピック同様、パラリンピックでも勝つことが求められ、『メダルを獲る』ことが最大の目標」

リオ五輪に続き、来月7日に開幕する「パラリンピック」。4年に1度の障がい者スポーツの祭典に、水泳日本代表監督として参戦する。若き精鋭たちを率いて大舞台に挑む峰村さんに、パラリンピックにかける思いやパラ水泳の魅力などを聞いた。

【「メダルを獲る」ことが最大の目標】

Q日本代表監督として臨む今の気持ちは

五輪に行くのは4度目です。今まではヘッドコーチでしたが今回、初めて監督として臨みます。全責任がかかり、そのプレッシャーは前回と比べ物にならない。だからこそやりがいを感じています。自分はコーチの方が向いていると思うが引き受けた以上、しっかり務めたい。

Q代表選手の調整の状態は 

それぞれが目標を持って自分に見合う練習に励んでいます。今月半ばに出発し、リオと時差1時間程度のカナダで直前合宿を行う。リオ入りは31日を予定しています。本番にピークを持っていくため、やるべきことを見据え取り組んでいく。選手の意思を邪魔しないよう、観察と会話を大切にしながらしっかり調整したい。

Qそれぞれの代表選手について思うことは

まず、世界選手権でも優勝している木村は5種目において国内トップ、世界ランキングでも4位以上に入っている。彼が筆頭になるのは間違いない。鈴木、山田、田中も十メダルを狙える。2大会ぶりの成田は自己ベストを更新するなどその進化は目覚ましい。色々な経験をしてきた選手なので、彼女と一緒に過ごすことで若手は多くのことを吸収できると思う。

Q目標とするメダル数は

ロンドンを超える数を目指したい。オリンピック同様、パラリンピックでも勝つことが求められ、「メダルを獲る」ことが最大の目標となる。勝利するには練習あるのみ。「やるべきことはやった」という自信を持てるような準備を直前までやり、本番では選手一人一人が持てる力を出し切り最高の結果を出したい。

【オーダーメイドの指導】

Q水泳を始めたきっかけは 

元気な子供だったので、親が何かスポーツをやらせようと3歳から水泳を始めました。凄く好きだったかというと、そこを突っ込まれるのは辛い(苦笑)。子どもの頃はオリンピック選手になりたかったが高校でやめてしまった。でも、大学でライフセービング活動を始め、今も仕事で関わっている。水泳との縁は切れかけたり繋がったり。様々な人との出会いがあり結局、ずっと続けています。やはり好きなのでしょう。

Q大学で福祉を学んだ後、マレーシアで障がい者の水泳指導者としての道を歩み始めました

将来、何になりたいという明確な目標がなかった。海外に行きたくて大学卒業後、青年海外協力隊でマレーシアに渡りますが、活動手段として水泳指導者になりました。ずっと継続していた水泳、憧れていた海外、大学で専攻した福祉、その時その時興味があったものを選択し、辿り着いたのが障がい者の水泳指導者でした。

Q障がい者を指導する上で大変な点は

健常者に比べ、より多くのことをシミュレーションしなければなりません。一人一人の障がいに合わせ、持っている能力をどう活かせばより速く泳げるようになるかを絶えず追求しています。障がいを理解し、会話を重ねながら練習法を探っていく。一般的な方法論が通用しないことも多く、ありえないこともやってみないと分からない。「試す」という作業が鍵。その試行錯誤が大変ですね。また、他のスポーツ同様、パラ水泳の進化も著しい。今の時代、選手はネットを通し世界の最新情報を入手し、SNSで海外選手とも交流しています。指導者がのんびり構えているようでは海外の選手とは戦えない。世界情勢やルールなど、あらゆる情報をいち早く「知る努力」を続けることが欠かせません。

Q逆に醍醐味は

いわば「オーダーメイドの指導」が求められ、「決まった形がない」という点が自分に合っています。通常の水泳指導者は国内に優れた人がたくさんいるが、そこではない新たな分野を切り開いていくパイオニア的な役割に惹かれます。特に鈴木選手は三肢欠損という重い障がいを持っていますが、彼「独特」のやり方で速さを追求していくのはとても面白い。彼との出会いは、自分をパラ水泳指導の魅力の深みに引き入れた大きな要素だっだと思います。

【競技に向う姿勢や結果を評価して】

Q指導上、心掛けている点は

障がいの背景を理解した上で、潜在能力を引き出してあげたり抑えてあげたり。例えば、手指の無い子は、足で何でもできるようになる。先入観で出来る出来ないを決めつけない。本人が無理だと思い込んでいることも敢えて挑戦させる。「できない」ではなく、「できる範囲でやってみる」ことを大事にしています。7割しかできないなら7割の能力を使い切ればいい。能力を最大限に活用できる方法は何か、能力をいかに「引っ張り出せるか」を常に考えています。

Q応援してくれる人に伝えたいことは

パラスポーツで世界の頂点を目指す想いは、オリンピック選手と何ら変わらりません。皆、勝ちたいという思いでやっています。「障がいがあるのに凄い」ではなく、競技に向かう姿勢や結果を評価して欲しい。成績が出ない時は、厳しい評価も甘んじて受ける。批判をタブー視する向きもあるが、ダメなときはダメと言うべき。スポーツですから同情は求めていません。

【身体ひとつで戦えるところが魅力】

Qパラ水泳競技の魅力は

パラスポーツの多くは義足や車イスなど道具が必要ですが、パラ水泳は何も使わない。身体ひとつで戦えるところが魅力。加えて、パラ水泳は身体の残存能力をいかに活かすかにかかっているので、「身体の使い方」に注目してみると観戦が格段に面白くなりますよ。

Q群馬のファンにメッセージを

生で見るのは4年後にとっておくとして、リオパラ五輪を映像でぜひ観戦して下さい。車イスバスケなどパラ独自の競技も沢山ある。現在、リオで活躍する五輪日本選手団に負けないようパラ五輪水泳選手も精一杯頑張りますので応援よろしくお願いします。

文・写真/中島美江子

【プロフィル】Fumiyo Minemura
71年高崎生まれ。81年ジュニアオリンピックで優勝。東洋大社会学部卒業後、97年に青年海外協力隊としてマレーシアで水泳指導に当たる。04年アテネパラリンピックではマレーシア代表の水泳コーチを務めた。帰国後、パラリンピック水泳日本代表コーチに。現在、日本代表監督を務める一方、自身が立ち上げたチームでパラリンピックを目指す選手たちの指導を行っている。

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