下仁田町歴史館 [大正時代の荒船風穴 蚕種貯蔵所の油絵](Vol.16)

「荒船風穴」束の間の姿

石積みとその上に建つ3基の建物が蚕種貯蔵庫で、左の建物が管理棟と物置。石積み沿いの道から中央の貯蔵庫の入口前を通って上がる道が、仮設の資材搬送路

当館は、世界遺産「荒船風穴」のガイダンス施設として関係資料を多数展示していますが、今回はその中から荒船風穴を描いた油絵を紹介します。

大きさは横82㌢・縦55㌢。1917(大正6)年頃の荒船風穴蚕種貯蔵所の全体が鳥瞰的に描かれています。荒船風穴の経営母体であった「春秋館」から2018年に発見されました。描いた人物は経営者・庭屋静太郎の子で主任を務めた千壽ではないかと考えられています。一見すると「素人が描いた地味な風景画」という印象を受けますが、実は資料として非常に価値があります。

たとえば、地形的に写真撮影のできない東側からの姿を描いている点で、この絵によって管理棟や物置の詳細を確認することができました。

また、この絵には現在は確認できない「作業道」が描かれています。荒船風穴は1905(明治38)年の起工から、貯蔵庫を増やし管理棟を建て替えて、施設全体を更新していました。この作業道は管理棟を立て替えた際の仮設の資材搬送路であり、当時の束の間の姿を描いていることがわかります。

現在は保存のため複製を展示していますが、当時の写真や年賀状なども展示していますので、荒船風穴と合わせてご見学いただき、百年前に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

※「荒船風穴」とは
2014年6月に「富岡製糸場と絹産業遺産群」の構成資産の一つとして世界文化遺産に登録。天然の冷風を利用した蚕種(カイコガの卵)の貯蔵所で、1905年~35年頃まで稼働。現在は3基の貯蔵庫の石積みや池などが残っており、一昨年から2年かけて行った整備工事によって全体像がわかりやすくなった。経営母体であった「春秋館跡」は今年3月に国史跡に追加指定された。

 

下仁田町教育委員会文化財保護係 主幹
黛 裕子 さん

まゆずみ・ゆうこ/1984年下仁田町生まれ。茨城大学人文学部人文学科卒。2009年下仁田町役場入職、18年より現職

きてみて
下仁田町歴史館甘楽郡下仁田町大字下小坂71-1/0274-82-5345/午前9時~午後4時半/一般200円、高校生以下無料※世界遺産「荒船風穴」と合わせての見学で割引あり/11月まで無休。12~3月は月曜(祝日の場合は開館し翌日)と年末年始が休館/企画展「下仁田から見つかった白い耳飾のなぞ-大陸からの渡来品?-」(~12月19日)の副会場(主会場は下仁田町自然史館)

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