和菓子店「鉢の木 七冨久」社長 石川久行さん

季節の和生菓子(上)に添えられた「食べる宝石」有平糖(石川さん著「日本の有平糖」より)

有平糖細工の第一人者「現代の名工」に
    和菓子職人では県内初

「 群馬の食を全国、さらには世界へ発信したい 」

コマや羽根つき、干支のねずみなどをモチーフにした生菓子がショーケースにずらり。1916(大正5)年創業の老舗和菓子店「鉢の木 七冨久」(高崎市赤坂町)の石川久行社長(66)は、昨年11月に令和元年度の「現代の名工」に選ばれた。厚生労働大臣が毎年、工業、衣服、建設など各分野で卓越した技能を持つ現役技術者を表彰する制度で、和生菓子製造工としての受賞は1967(昭和42)年の創設以来、県内初だ。
(上原道子)

同店3代目・石川さんは、戦国時代にポルトガルから伝わった、砂糖や水飴を原料とした飴菓子「有平糖」の、日本で数少ない継承者の一人。全国各地から依頼を受け講演や細工体験教室を開催するなど、和菓子の普及や後進の育成に取り組んでいることが評価され「現代の名工」受賞に結びついた。

大学で栄養学を学んだ後、京都の和菓子店で修業を積んだ。そこで出会ったのが有平糖。季節の風物を表現した、そのみずみずしさと美しさに魅了される。別名「食べる宝石」と呼び、有平細工の技能継承と普及に努めてきた。継承者が減少する中、技術を記録したものがなかったことから、その魅力や技法を写真付きで紹介する解説書「日本の有平糖」(グラフィック社)を一昨年に出版。「日本の忘れられそうな情景をお菓子という形で残していくことも、大事な使命」としみじみと語る。

また、和菓子は茶席で食べるもの、という格式張ったイメージを払しょくし、若い人にも楽しんでもらいたいと、干支にちなんだ菓子のほかクリスマスやバレンタインなどのイベントに合わせた新しい和菓子の創作にも意欲的に取り組む。
さらに、和菓子にとどまらず群馬の名物を広く発信する方法を模索中という石井さんは、「名物がないといわれる群馬にも、イチゴの県品種やよいひめなど優良物産がたくさんある」と力説する。「今回、せっかくいただいた『現代の名工』の名を生かし、菓子屋の立場ですが群馬の食をもっといろいろな方法で全国、さらには世界へ向けてPRしていけたらいいなと思っています」とほほ笑む。

県菓子工業組合の理事長として業界をけん引する名匠・石川さんは、伝統を守りつつ、和菓子を含む群馬の食文化全体へ新風を吹き込むべく、挑戦し続ける。

掲載内容のコピーはできません。