報道と表現の自由[5月12日号]

「憲法記念日ペンを折られし息子の忌」。朝日新聞大阪本社の編集局には、30年前のこの日に襲撃され命を奪われた小尻知博記者(当時29)の母みよ子さんの句が掲げられています。事件当時、私は大学生でした。卑劣な犯行に憤り、報道と表現の自由に関心を寄せる大きな契機となりました。
入社翌年の5月3日、当時赴任していた石川県から、休日を使って兵庫県西宮市の阪神支局を訪れました。散弾銃が撃ち込まれたのと同じ時刻に、同僚や社の幹部が集い黙とうをするのに交じりました。言論の自由を考えるようにと朝日新聞労組が開くシンポジウムに参加しました。
驚いたのは、社外の、街の人々の関わりです。支局には、焼香を上げるために遠方からも訪れる人たちが途切れない。尼崎市の街頭では、青空の下、パフォーマンスが繰り広げられていました。
「無言の暴力に屈して黙っていてはいけない。今こそ語ろう、歌おう、踊ろう」と、小尻記者に取材を受けたことのある劇団員ら市民が集まる。今年までほぼ毎年、開かれ続けています。労組主催のシンポ「言論の自由を考える5・3集会」は今年30回を迎えました。今回のテーマは「『不信』『萎縮』を乗り越えて」でした。
4月に国際NGOが発表した2017年の「報道の自由度ランキング」で、日本は72位でした。10年の11位から急落しています。30年前、社の先輩たちは「この国で、自由な新聞を作ることが命懸けの仕事だとしたら、私たちは逃げない」と声明を出しました。その後この仕事に就いた私たちにも、覚悟が求められています。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

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