壁画、今昔。(Vol.8)

ILOVEラスベガスタイトル画像
前橋出身の美術作家SUSH MACHIDA(すしゅ・まちだ)さんがラスベガスでの暮らしを紹介。
ニュース番組の取材を受ける筆者

創世記、人類は絵を描き始めました。複雑に入り組んだ、暗くて静かな洞窟に残された牛や馬は、数万年の時を経て現存する人類最古の絵画です。

そこから現在まで、ヒトは相変わらず創作を続けています。そういう私も、そんな中の一人…

少し前、ラスベガスの施設内に壁画を仕上げました。そこは、虐待など様々な事情を持つ子どもたちを保護するための政府機関。迷路のように続く廊下と、その壁を薄暗い蛍光灯が照らすだけの、何とも不気味な空間でした。

これでは子どもたちの恐怖心を煽ってしまう。そこで、壁を絵画で埋めたらどうかという案が浮上。画風がマッチしているからと、私が選出されたという訳です。私自身、初めての公共事業。いつものように自由に描くのとは違って、責任重大。

柔らかい春の或る日、制作を開始しました。人の気配が消える夕暮れ時から明け方まで毎晩通い、暗い灯の下で白い壁と向き合い描く日々。静寂の中、壁を走る筆音だけが響き、天井付近を描く際に昇る脚立の軋む音がそれの邪魔をする。そんな真夜中の連続。

厳しい夏が訪れる頃に、大まかな形が見え始めました。一等眺めの良い壁には巨大な金魚、そして荒波の中に鯨、雲の合間に鳥の群れ。カラフルで優しい色彩を施し、観る度に新しい発見があるよう、仕掛けを沢山散りばめて。

細部にもこだわり、一歩一歩前に進みます。こうした日々を重ねていくと、 夏の終わりには動物達に表情が芽生えます。

ラスベガスの施設内に描かれた壁画

それから更に手を加え、時に消し、ようやく最後の一筆を終えると、遂に完成。物語の幕開けです。金魚は歌い、鯨は泳ぎ、鳥は自由に空を舞う。絵画に魂が宿った瞬間です。

それを見届けると、明るく大きな秋の月に照らされて、後ろ髪ひかれつつ、さようなら。夜明けが近付いていました。

こうして再び何も無くなると、何かを描きたくなります。そこに創造するエネルギーが生まれるのでしょう。終わりは、始まり。それはきっと、数万年前に洞窟で描いていた人々と同じ。 人の人たる所以です。

 

SUSH MACHIDA (すしゅ・まちだ)

SUSH MACHIDA (すしゅ・まちだ)

【プロフィール】
前橋生まれ。県内の高校を卒業後、92年渡米。アメリカンフォトインスティテュート(ニューヨーク大)選出。ネバダ州立大学ラスベガス校修士課程修了。Otis美術大客員教授を経て、現在、美術作家として活動中。ラスベガス在住。インスタグラム@sushmachida

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