岩宿博物館[槍先形尖頭器](Vol.7)

日本の旧石器時代を証明した 美しき石ヤリ

相澤さんが発見した「岩宿遺跡出土槍先形尖頭器」長さ6.9cm(相澤忠洋記念館所蔵)

岩宿遺跡は、日本列島における人類の歴史が1万年以上昔の旧石器時代の段階に遡ることが初めて明らかにされた場所です。岩宿遺跡の発見者は、市井の考古学研究者相澤忠洋さん(1926~89年)。その生い立ちから、岩宿遺跡を発見し発掘調査の成功に至るエピソードは、多くの人々の感銘を集めています。

その相澤さんが、日本の旧石器時代(岩宿時代)の存在を確信したのは、今回紹介する石ヤリの発見によってといわれています。相澤さんが発見した石ヤリは、学術的には「槍先形尖頭器(やりさきがたせんとうき)」と呼ばれています。透明度の高い黒曜石を打ち欠きながら、木の葉のような形に仕上げていますが、よく見ると先端から右肩にかけて細長く、まるで円ノミで彫刻した溝のような跡があることがわかります。これは専門家から「樋状剥離(ひじょうはくり)」と呼ばれているもので、この石器を作った人が石の性格を知り尽くし、そのうえ高い技術力を持っていたことにほかならないことを示しています。多くの実験考古学者がこの石ヤリをまねた石器を作ろうとしても、左右対称で形まで美しいものを作ることは至難の業なのです。

岩宿博物館では、相澤忠洋記念館のご厚意によって、相澤さんに関する資料を一括でお借りしています。この石ヤリのほか、相澤さんが調査した権現山(伊勢崎)・不二山(桐生)など代表的な遺跡の石器のほか、調査に使った自転車やオートバイを常設展示室において展示させていただいています。相澤さんゆかりの品々をご覧になり、岩宿遺跡の魅力や相澤さんの人となりを感じていただければと思います。

岩宿博物館 館長
萩谷 千明

はぎや・ちあき/1966年茨城県生まれ。92年明治大学大学院(博士前期課程)修了、笠懸野岩宿文化資料館(現岩宿博物館)学芸員、みどり市教育委員会文化財課を経て、2020年4月より現職

 

きてみて
岩宿博物館
みどり市笠懸町阿左美1790-1)/0277-76-1701/午前9時半~午後5時(入館は午後4時半まで)/一般310円、高校生200円、小中学生100円/月曜・年末年始(12月28日~1月4日)は休館(月曜が祝日の場合は開館し翌日休館)/9月22日まで夏休み子ども向け展示「岩宿人のくらしをさぐる」開催中

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