心に木を植える[12月8日号]

今秋、わたらせ渓谷鉄道沿いを北上し栃木県日光市を訪れました。山あいの旧足尾町。400年近く操業した足尾銅山の産業遺産群を巡る小旅行です。大煙突がそびえる精錬所、レンガの防火壁、水力発電所の跡……。閉山から40年以上経っても、かつての繁栄がうかがえます。

同時に目に入るのが、草木に乏しい山々です。農民とともに闘った政治家田中正造の印象から渡良瀬川の下流域での被害イメージが強いのですが、源流近い銅山付近でもまた、伐採や精錬で出た亜硫酸ガスによる煙害や伐採で荒廃しました。洪水を起こし、村も果てました。

国が緑化事業を本格化させたのは敗戦後。枯れた山はまだ広く、あと百年、二百年かかるといわれます。その緑化運動を、官民が協力して行っています。NPO法人「足尾に緑を育てる会」は、「100万本の木を植えよう」がスローガン。発足から20年余で計20万本以上を植え、参加者は16万人を超えたそうです。

砂防ダムそばの銅(あかがね)親水公園に、2010年に他界した作家立松和平さんの顕彰碑があります。発足時から同会の顧問。「焦らずゆっくりしつこく続けることが大切」と話していたといいます。それは「木を植えることは、心に木を植えること」だからだと。

銅山の歴史と森林再生の取り組みを伝える足尾環境学習センターは、今月から冬季休業に入り、再開は4月です。「春にはまた植樹がありますから。ぜひ来て下さい」と、センター運営を市から委託されている同会のメンバー。心を耕し、木を植えたいとひそかに計画しています。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

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