慰霊の村で再び[12月15日号]

冬に入る前にと先月下旬、上野村に宿をとりました。県境に近い山中の洞穴で、岩場を登ったり隙間をくぐったりする「洞窟探検」をガイドの案内で楽しんだ後、村役場近くの旅館に向かいました。

32年前の日航機墜落事故時、朝日新聞取材班が1カ月半にわたり滞在させていただいた場所です。広間には、記者やカメラマン、通信設備担当らが寄せ書きした色紙。記録によれば、総勢478人です。

この旅館の存在を先輩から聞き、赴任後初めて迎えた昨夏の追悼慰霊式の日、挨拶にうかがいました。今夏は、当時取材班で今は関西に住む先輩が、夏休みをとって御巣鷹へ登り、この旅館に泊まると聞いて訪ねました。

晩秋に再訪と宿泊を考えたのは、11月上旬にヘリ墜落事故が起きたからです。現場からわずか数百メートルの旅館には、報道陣が次々集まり、再び取材基地となりました。住民は目撃したことを記者たちに語ってくれ、そして消防団の人たちは法被をまとって現場に駆け付けました。

夏の慰霊式に2度参加し感じるのは、村民の深い追悼の念です。道案内を担当する人、喪服で集まる住民の姿。展示棟で垣間見られる当時の苦闘。旅館には訪れる度、遺族の無念に思いを寄せる言葉が、女将の口からこぼれます。

今夏の式典で、慰霊の園理事長の黒沢八郎村長は「諸霊の眠るこの地を守り続ける」「真心を持って霊をまつり慰め、事故の戒めを末代まで語り継ぐ」と述べました。この地で再び空の事故が起き、命が奪われた因縁と、関係者の無念を思います。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

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