映像作家・前橋文学館館長 萩原 朔美 さん

定点観測写真「20代と60代」と70代の萩原館長。「よく学生たちに『これ本当に同一人物』と言われますが、どちらも私です(笑)」=前橋文学館

「根源的なものを埋めるのが詩や文学館の役目。言葉が感じられる場所にしたい」

祖父は詩人・萩原朔太郎で、母は作家で舞踏家の萩原葉子。16年4月から、朔太郎をはじめとした前橋出身の詩人たちを紹介する前橋文学館の館長を務める。現在、同館で開催中の「萩原朔美の仕事展」(~7月2日)では、映像やエッセイ、雑誌、アートブック、写真など数々の自作を発表。映像作家、演出家、エッセイスト、大学教授、文学館館長など、多彩な顔を持つ萩原さんに、表現活動や前橋文学館、朔太郎への思いを聞いた。

【一貫して作品を作り続けている】

Q展示作品は制作年も表現も多岐にわたっています

初めて編集した雑誌から同じ場所・構図・ポーズで時間を違えて撮影した定点観測写真やリンゴが腐るまでを観察した映像、数年分のレシートを束ねたアートブックまで、色んな作品を一堂に集めて紹介しています。写真展はしていましたが、全ての作品を出したのは今回が初めて。展示してみて分かったのは劇団員、会社経営者、大学教員、文学館館長と職業は4回変わったし結婚も4回したけど、一貫して作品を作り続けているということ。感慨深いですね。

Q作品テーマについて教えて下さい

興味があるのは「差異と反復」。何かが変化したりズレていく様を観るのが好き。例えば、自らの老いも辛いこと以外の何物でもないけれど、客観視することで笑い飛ばすことができる。全ての出来事は喜劇。「差異と反復」は、そんなことに気付かせてくれます。

Q展覧会タイトルに込めた思いは

幼い頃から母親に「仕事(=芸術的な活動)をしなさい」と言われ続けてきました。会社経営や大学教員は母親に言わせると仕事じゃない(苦笑)。だから、私には絶えず表現活動をしなければという焦りがあります。タイトルは母親の思いを無意識的に反映しているのかもしれない。

Q展示を通して伝えたいことは

「多ジャンルを横断する文学館」の地ならしになれば良い。今まで評価の定まった故人の回顧展が多かったけれど、これからは今の人もどんどん取り上げていく。仕事展を新たなスタート地点にしたい。「前橋文学館を最も有名な人気者にする」のがこれからの私の仕事。

【「言葉」が感じられる場所に】

Q就任から1年。振り返ってみていかがでしょう

本当に早い。あっという間。1年目はある程度企画が決まっていたので、ポスターやタイトルなど変えられるところを変えました。真面目なものからインパクトのあるものへ。見た目や文字の変化は重要です。先月開かれた朔太郎忌のサブタイトルも「どこがヤバイの?朔太郎」と敢えて挑発的にした。心をザワつかせる言葉でないと人は動いてくれません。それと、展示を立体的に見せるためにリーディングなど今までやっていなかったイベントもするようになりました。「あそこはいつも何かやっているな」という「お祭り感」が大切。常に新しいことを仕掛けています。

Q新しい仕掛けとは具体的に何ですか

構造的にも心理的にも入りづらかった入口にレストランのような黒板を置き、窓には「変態だっていいじゃない。」という吹き出し、壁には朔太郎の詩を張り付けました。大きな反響があり、これはイケると確信しました。次はトイレにも張るつもり。用を足している時、「父は永遠に思想である」といった文字が飛び込んきたら面白いでしょう。

Q今秋、アーツ前橋と「言葉」をテーマにした展覧会をします

企画展を通して両館のファンを交流させちゃおうっていう魂胆です(笑)。周辺施設との連携は絶対に必要。将来的には群馬の全文化施設と一緒にスタンプラリーなどしたいですね

Q文学館の役割とは

我々は言葉でモノを考えますから、どんな言葉に出会うかで心持ちが変わります。人生に悩んだ時、ここに来て先人たちの言葉に触れ救われた気持ちになってもらえたら嬉しい。孤独や悲しみといった根源的なものを埋めるのが文学館の役目。「言葉」が感じられる場所にしたい。「われの生涯(らいふ)を釣らんとして」朔太郎が広瀬川に来たように、人生を釣ろうとする時、人は川へ行くもの(笑)。文学館の近くには広瀬川もあれば20以上の詩碑もある。気軽にフラッと訪れて欲しい。

【誰にでも愛される文学館に】

Q文学館のキャッチフレーズは何ですか

「入口は一つだけど出口は無数」「迷った時に寄り添う文学館」など一つではない。思い付いたら書き留めているのでいっぱいある(笑)。今の心境は、「前橋の故郷、それが前橋文学館」です。

Qどんな文学館を目指しますか

「何だこりゃ」と心に引っ掛かるような新しい朔太郎像を発信していきたい。彼の詩をモチーフにしたアニメや映像やロック調の曲を作ったり、女優さんに朗読してもらったり、見せ方や入口は無限にある。朔太郎はモダンで先進的な人だった訳だから、現代に生きる文学館も大文豪をただ崇めるのではなく前衛的なことをやっていかなければいけない。文学ファンだけでなく親子や若い人たちにも面白がってもらえる、誰にでも愛される文学館が理想です。

Q今後、新たに仕掛ける企画は

19年にアーツ前橋や世田谷文学館など全国の文化施設と連携して朔太郎大全をします。各々が独自の切り口で朔太郎を紹介することで、その多面性とスケール感が出せる。あと、全国の高校生を対象にしたポエムリーディング大会を開きたい。ここで日本一を決める。甲子園ではないが、全高校生の「目指せ前橋文学館」になりたい。やることがいっぱいあって困っちゃいます(笑)。

Q群馬の方にメッセージを

私は会う人会う人に、「世界三大都市の前橋は~」と話しています。半分冗談で半分本気。何の三大都市かと聞かれたら、「多くの詩人を輩出した都市」と答えています。だって、「水と緑と詩のまち」だし、詩碑はいっぱいあるからあながち嘘じゃない。ですから皆さんも「世界三大都市前橋は~」と言い続けましょう。嘘も誠。「何の三大都市」と聞かれたら、自分なりの思いを伝えてください。答えは自由です。

文・写真/中島美江子

【プロフィル】Hagiwara Sakumi
46年東京生まれ。寺山修司主宰の「天井桟敷」で役者・演出家を務めた後、雑誌「ビックリハウス」の編集長に。映像制作やエッセイ執筆の傍ら、81年から多摩美術大で教鞭をとる。16年4月、前橋文学館館長に就任。

掲載内容のコピーはできません。