眠れる森[4月20日号]

先週末、中之条まで足をのばし、「拝啓、うつり住みまして」展を観てきた。レトロな風情ただよう旧廣盛酒造を会場に、県外から移住してきた6人のアーティストの作品が、30日まで観覧できる。地元の人々の顔をを描いた鉛筆画、古い神社の写真、生活や文化を題材にしたやわらかい雰囲気のイラスト原画などが並び、各人がこの地に抱く敬意や愛着といった想いが伝わってきた。

私も東京から「うつり住んで」きたのだが、中之条にはちょっとした思い出がある。夫の仕事の都合で高崎への引っ越しが決まったのは1998年の冬。ちょうどその頃、人気タレントの中山美穂さんや木村拓哉さんが出演するドラマ「眠れる森」が放送されていた。一家惨殺事件を軸とする残酷で不穏なストーリーとは裏腹に、作中の「森」は美しく神秘的に描かれ、その映像美に惹きこまれた。記憶の一部を失ったヒロインが帰り着く郷里は「群馬の中之森」という設定で、実際に中之条駅周辺で撮影が行われたと後に知った。

高崎に住んでもうすぐ19年経つが、中之条は幾度訪れても私にとっては変わらぬ「眠れる森」だ。どの季節も自然は美しく、はじめての風景にも懐かしさを感じリラックスできる。人が穏やかで、ゆったりとした時間が流れているからだろうか。やわらかな新緑と咲き誇る春の花を堪能しつつ、6人の作家が何に惹かれてこの地に移住してきたのか、ほんの少しわかる気がした。

(野崎律子)

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