空風と義理人情[2月10日号]

高層ビルが立ち並ぶ東京・丸の内でビル風に肩をすくめた日の午後、前橋に戻りました。やはり赤城おろしは比べものにならないほど強い。肌に痛く、歩くのがやっと。上州名物空っ風を全身で体感している、群馬で初めての冬です。
同じような強風の日、高齢男性が道路に尻餅をついているのを見かけました。両手の買い物袋に風を受けて転び、電柱に頭をぶつけたといいます。先に通りかかった若い女性がすでに救急車を呼び、大通りから救急隊を先導して戻ってくるところでした。
帽子も眼鏡も飛ばされたというので探していると、自転車で通行する男性が「100メートルほど先にあった」。きびすを返して拾ってきてくれました。別の日にも、風に飛ばされたお年寄りの帽子を追って走る、行きずりの女性を見ました。上毛かるたの札「雷と空風 義理人情」を想起しました。
群馬に転入した昨春、新品の上毛かるたの箱を開きましたが、この「ら」札が赤く、一番上にあることに気づきませんでした。解説本を読んでやっと、上州の先人の反骨心と学びました。カルタを作った70年前、日本を占領していた連合国軍総司令部(GHQ)の禁止令で、上毛の偉人を札に読み込めなかったことへの憤怒と抵抗です。
正月明けの風物詩でもある上毛かるた競技の県大会が今月5日、前橋市内で開かれました。地区予選を勝ち抜いた284人の小中学生、百人を超える公認審判員、子ども会役員の真剣な姿勢に圧倒されると同時に、第70回を迎えた大会と上毛かるたの歴史に思いをはせました。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

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