絲山秋子の、上質な文学の世界を味わって

企画展「絲山秋子展―“土地”で生きる人々を描く」

小説「ネクトンについて考えても意味がない」の原稿メモ5冊(絲山秋子氏所蔵)

高崎在住の芥川賞作家、絲山秋子さん(1966年~)は地方を舞台として、その土地を生き生きと表現し、そこで生きる人々や「よそ者」、その関係性を丁寧に描きます。群馬の様々な場所も、作品の舞台として何度も登場します。本展は、こうした絲山さんの群馬や地方都市への愛をはじめ、「作家・絲山秋子」が誕生するまでの軌跡、作品ガイド、そして絲山さん自身の魅力がたっぷりと詰まっています。

東京生まれの絲山さんは、早稲田大学政治経済学部を卒業後、住宅設備機器メーカーに総合職として入社し、福岡、名古屋、高崎、大宮に赴任。会社員時代に病気にかかり、療養中の1999年に小説を書き始めます。2003年に文學界新人賞を受賞して作家デビューし、2006年の『沖で待つ』で芥川賞を受賞。同年から会社員時代の赴任地であり、一番住みやすく気に入っていた高崎に完全移住しました。2016年には群馬を舞台にした『薄情』で谷崎潤一郎賞を受賞、今日に至るまで題材や表現方法を深め、作品の幅を広げながら、活躍なさっています。

さて、展示会場では、3つの章を中心に絲山秋子の世界を紹介しています。第1章では、作家・絲山秋子の概要を、第2章では、作品ガイドとして絲山作品を紹介。絲山さんと群馬のつながりがわかります。第3章ではラジオパーソナリティや大学教員など、作家以外の幅広い活動を紹介しています。「#公開書簡フェア」で、絲山さんが全国10店舗の書店員とやりとりした手紙も展示してあります。

また、本展に合わせ「絲山秋子に聞きたい10の質問」というタイトルでロングインタビューを実施しました。作家以前のことや会社員時代、地方を描くことや登場人物との関係など様々な質問に答えてくださっています。抜粋、編集したものをパネル展示すると共に、ロングインタビューの様子は群馬県の公式YouTubeチャンネル「tsulunos(ツルノス)」で公開しています。

本展の一番の見どころは、創作ノートや書簡類などの自筆の資料。すべて、絲山さんが快く提供してくださいました。作家・絲山秋子のメイキングと言える貴重な資料。絲山ファンはもちろん、これから絲山文学を読まれる方にも楽しんでいただけると思います。

さらに、絲山さんご自身が直しを入れたゲラ原稿、小学生の頃に書いたレポートや創作ノートの他、幼い頃から大学時代、会社員時代にかけての未公開の写真、小説の取材の際に撮った写真、所蔵本など、軌跡を辿ることの出来る貴重な資料を約150点展示しています。公式Twitterリツイート&ご観覧ありがとうキャンペーンなどの企画も行っていますので、当館のホームページ、Twitter、Instagramなどをぜひチェックしてみてください。

 

県立土屋文明記念文学館 学芸係長
細田 亜津抄さん

沼田生まれ。群馬県立女子大学文学部卒業後、群馬大学大学院教育学研究科修士課程修了。高校教員として20年県内の公立高校に勤務。2016年(平成28)4月より県立土屋文明記念文学館学芸係として赴任

■県立土屋文明記念文学館(高崎市保渡田町2000)■027・373・7721■3月14日まで■午前9時半~午後5時■火曜休館(23日は開館、24日休館)■一般410円、大高生200円、中学生以下無料)

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