群響音楽監督 大友 直人 さん

1回1回の演奏会で、『感動』や『喜び』を届けたいですね」と話す大友さん=高崎の音楽センター

【新しい時代の音楽を創造】

「群馬における独自の音楽シーンを、群響と共に切り開いていくことが私に課せられた使命」

 

【クオリティーを磨き上げる】

「メンバー一人ひとりのモチベーションを高め、そしてグループとしてのアンサンブルのクオリティーを磨き上げながら、新しい時代の音楽を作っていきたいですね」
穏やかな語り口の中に秘めた情熱と覚悟がにじむ。10年度から群響首席指揮者兼芸術アドバイザーを務めた沼尻竜典さんの任期満了退任に伴い、今年度から音楽監督に就任した。08年3月に高関健さんが退任して以来5年間、空席となっていたポストで大友さんは4代目となる。任期は3年間。定期演奏会を含め年間7回以上指揮するほか、楽団員の指導や定期の企画立案などを担う。

【真正面から全力で挑む】

就任1年目の13年度定期では、オーケストラの魅力を様々な角度から楽しんでもらえるようベートーヴェン「エグモント序曲」やシューベルト「交響曲第5番」などオーソドックスなスタンダード曲を数多く紹介する。一方、ゲストは18歳のフルート奏者・新村理々愛さんや20代のチェリスト宮田大さん、日本を代表するピアニストの小山実稚恵さんや指揮者の秋山和慶さん、群響首席客演指揮者のマルティン・トゥルノフスキーさんなど、若手から中堅、巨匠までバラエティーに富む。「初めてのシーズンですから、まずはお馴染みのレパートリーに真正面から全力で挑む。勢いのある旬の演奏家や円熟味を増したベテラン指揮者との共演で、群馬にいながらにして日本の音楽シーンの最前線を感じてもらえると思う」

【保守的な面を変えていく】

22歳でNHK交響楽団を指揮してデビュー。以来、国内にとどまらず、コロラド交響楽団やロイヤル・ストックホルム・フィルといった世界のメジャーオケに客演。04年から8年間に渡り東京文化会館の初代音楽監督を務めたほか、現在は東京交響楽団常任指揮や京都市交響楽団桂冠指揮者、琉球交響楽団ミュージックアドバイザーとして活躍する。
群響との付き合いは20代からと長く、90年の初共演以来8回を数える。今年2月には、県の文化基本条例制定記念コンサートで桐生出身の山中千尋さんら県内ゆかりのソリスト3人と群響と共演。息の合った名演を披露したばかりだ。
群響に対する印象は、初共演時から今に至るまで変わらない。「老舗中の老舗オケ。歴史や伝統に加え、創立以来行っている移動音楽教室など独自の普及活動においても素晴らしい実績を上げている。地域の人にこれだけ愛されているオケもないでしょう」と高く評価。一方で課題点も感じている。「安定感があり非常に落ち着いているオケですが、見方を変えれば少しおとなしいというか保守的な面も否めない。ですから、そのイメージを楽団員と一緒に少しずつ変えていく必要がありますね」

【常に新しいことに挑戦】

変革に向けた中・長期ビジョンとして既に様々な構想を練っている。子供定期演奏会など移動音楽教室とは違った切り口の公演シリーズ企画、クラシックにとどまらず他ジャンルで活躍する同時代のアーティストたちとのコラボレーション、若い世代や実力ある無名の作曲家・演奏家らの発掘と育成、日本全国および海外公演の実現‐数々のアイデアは、これまの経験や実績に裏打ちされているだけに説得力がある。
作曲家の三枝成彰さんと共に日本を代表するオケの首席クラス奏者を集めた「ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラ」公演を企画・構成・指揮するほか、東京交響楽団と子供定期演奏会を開いたり、同楽団と当時あまり知られていなかった作曲家・佐村河内守さんの交響曲第1番「HIROSHIMA」を共演するなど、デビュー時から今に至るまで常に新しいことにチャレンジしてきた。それは、「行き詰まり状態が続くクラシック界の停滞を何とか打破していかなければ」という強い危機感からだ。「名曲を演奏するだけでは限界にきている。クラシック界は新しいものを作り出していかなければ衰退していくだけ。県民の皆さんに音楽を楽しんでもらい、感動してもらうにはどうすれば良いか。真剣に追及し挑戦し続けていかなければいけない。群馬における独自の音楽シーンを群響と共に切り開いていくことが私に課せられた使命だと思っています」

【目と耳で直接確かめて】

明日20日、群馬音楽センターで開かれるオープニングコンサートが就任後初の仕事になる。曲目はワーグナー「楽劇『ニュルンベルグのマイスタージンガー』前奏曲」、モーツァルト「交響曲第41番『ジュピター』」、R・シュトラウス「交響詩『英雄の生涯』」。新シーズンの幕開けを飾るに相応しいプログラムだ。「広く親しまれている前奏曲、完成度の高いジュピター、バイオリンソロが活躍する英雄の生涯、どれもハードルの高い曲ですが群響の今の実力を最大限に引き出せるよう全力を尽くしたい。エネルギーに満ちた群響の新しい演奏を会場にお越し頂き直接目と耳で確かめて下さい」
群響の「新しい顔」となったマエストロは明日、「最高の演奏を届けたい」という熱い思いを胸に群響の指揮台にあがる。

文:中島 美江子
写真:高山 昌典

【プロフィル】Naoto Otomo
58年東京生まれ。桐朋学園大卒。小澤征爾らに師事。群響音楽監督のほか東京交響楽団常任指揮者などを兼任。11年発売のアルバム「佐村河内守 交響曲第1番『HIROSHIMA』」(日本コロムビア)が累計約14万枚の大ヒットを記録中。昨秋から朝日新聞群馬県版でコラム「土曜テラス」を連載中。東京在住。

 

〜大友氏へ10の質問〜

休日は自宅でひたすらのんびりしています

—座右の銘は 

「志」や「情熱」という言葉が好きですね。

—常に持ち歩いているもの

銀座の文房具店・伊東屋のボールペンとドイツのファーバーカステル社の鉛筆削り=写真。楽譜に書き込む際は鉛筆なので欠かせません。あとは、老眼用のメガネです(笑)。

—モットーは

大切にしているのは、「音楽に対して誠実であること」。難しいことにチャレンジする姿勢を持ちながらも実力以上に背伸びしないよう気を付けています。

—長所短所は

長所は分かりませんが、短所はグズなところ(苦笑)。慎重すぎて行動が遅い。頑固ともいえます。聞く耳は持っているつもりなのですが、あまり人の意見に左右されないかな。

—休日の過ごし方

自宅でひたすらのんびりしています。メンテナンスに充てていると言えばカッコイイですが、ただ単に倒れている感じ。外出もしますが積極的には出かけないですね。

—これから、やりたいこと

プライベートでは、体力作りでしょうか。寄る年波には勝てず、体力がかなり落ちてしまっているので。一方、仕事面では劇団四季や宝塚のような、多くの人から支持されるオリジナルの舞台芸術を手掛けてみたいですね。

—趣味は

歌舞伎や能、日本画などを見るのが好きです。最近、忙しくてなかなか行けませんが。

—最近、感動したことは

今年1、2月、作曲家の三枝成彰さんによる新作オペラ「神風」を上演したのですが、会場中のお客さんが泣いているのを見た時、胸にこみ上げてくるものがありました。戦争の愚かさ、残酷さを改めて認識し、このような悲劇を二度と起こしてはいけないと強く感じました。大げさに聞こえるかもしれませんが、これからも音楽を通して平和活動の一翼を担っていきたいですね。

—尊敬する人は

音楽家は大勢いるので1人に絞れませんが、他ジャンルであれば手塚治虫さんです。20代の頃、NHKのテレビ番組で初めてお会いしました。スタジオに入ってくるなり「スティーブ・ライヒの音楽についてどう思いますか」と質問されて。もうタジタジです(苦笑)。初対面の若者とも真剣に向き合おうとする気持ちが伝わってきました。色々お話ししましたが漫画を通して発信するメッセージはもちろん、独自の世界観、時代を読む先見性、豊かなイマジネーションに圧倒されました。

—最近、はまっていること

琉球交響楽団ミュージックアドバイザーとして、11年前から沖縄での音楽活動に真剣に取り組んでいます。常設のオケではなく環境も十分に整っているとは言えないのですが、沖縄ならではのコンテンツを活かし独自の音楽シーンを作っていきたいですね。

 

取材後記
「着替えてきますのでもう少しお待ち下さい」 2月7日、県文化基本条例制定記念演奏会のリハーサル後、爽やかな笑顔と共に楽屋へ入っていった。程なくして仕立ての良い黒スーツに身を包み颯爽と登場。スラリとしたシルエットとエレガントな佇まいに思わずウットリ。「貴公子」という言葉がこれほど似合う方もいないのではないか。細やかな心遣いだけでなく物腰も実に紳士的。とはいえ、柔らかな口ぶりとは裏腹に、音楽に対する思いは熱い。「地域と密接な関係を作り熱気を生み出していく」「社会におけるオケの役割を考えながら楽団員と次の時代を切り開いていきたい」 発する言葉からは静かな闘志が伝わってくる。明日のコンサートではどんな演奏を聴かせてくれるのか。非常に楽しみだ。

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