群馬県高等学校野球連盟理事長 樽見 尚人 さん

「公立私立関係なく、お互い切磋琢磨しながら夏の大会を大いに盛り上げて欲しい」と話す樽見理事長=前橋工業高校(高野連事務局)

「野球は人生の縮図。仲間とプレーできる喜びを感じながら、真剣勝負をして欲しい」」

公立高校で教鞭をとる傍ら、群馬県高等学校野球連盟(県高野連)の業務に携わり四半世紀。理事を経て09年、理事長に就任。以来、夏の群馬大会をはじめ、春秋県大会運営など高校野球の中心的役割を果たす。夏の大会が開幕し、連日、球児たちが熱戦を繰り広げている。定年退職を機に今年度で勇退する樽見理事長に、高野連の仕事や高校野球の魅力、球児への思いなどを聞いた。

【各校の自主性に任せている】

Q県高野連に関わるようになったのはいつからですか

もともと野球が好きで、高校教師になってから野球部の部長や監督を務めていました。92年、当時の役員に声をかけて頂き携わるようになりました。25年間、裏方として大会企画や運営に当たっています。いつの間にか役員の中では一番の古株になってしまいました(笑)。

Q理事長の仕事内容を教えて下さい

現場監督として春、夏、秋の県大会運営を行うのが主な仕事。大会を通じて、野球の普及や選手の育成に繋げていければと思っています。各校の監督とは会議で全国的な動向を伝えるなど連携を密に取っていますが、常に目を光らせている訳ではありません。何か問題が起きた時には対応しますが、具体的な指導はせず各校の自主性に任せています。

Q特に大変な業務は何ですか

群馬の高校野球のレベルがどんどん上がっているので、注目度の高い夏はもちろん、春と秋も観客数が増え運営が益々難しくなっています。高野連事務局に批判や文句を言ってくる人、球場内で隠し撮りをする人、駐車場のトラブルなど、多くの問題が噴出してきました。私が駆け出しの頃には考えられないことが起きており、その都度、迅速な対応を迫られています。

Q理事長として心掛けていることは

理事長だから偉いとかは全くない。トップダウンではなく意見を出しやすい環境を作り、封建的な部分を少しずつ変えてきました。色んな方の意見を聞き、じっくり調整してやっていくことが大切です。先走るとロクなことがないですから(笑)。

Q理事長として思い出に残る大会は

記憶に新しいのは昨夏の大会。30数年ぶりに開会式が雨になりました。既に全生徒が集まっていたので決行、観客のことを考え開会式は入場料を無料にしました。どしゃ降りにならず結果、その判断は良かったと思っています。また、理事長に就任した09年の春の関東大会も印象深い。群馬開催で、その時の開会式も雨。開催を決めましたが運良くすぐに止み、関係者からとても感謝されました。さらに、その年は高崎商、前橋商が選抜にダブル出場。以来、選抜出場校が増え勝率も高くなり、12年と今春も2校出場しました。「お前は何か持っているな」と言われます(笑)。

【高校野球は人生を教える教育の場】

Q高校野球の報道に関してどのようにお考えですか

日本学生野球憲章で、商業的行為は禁止されています。例えば球場内で撮影した写真販売はNG。しかし、新聞や出版などメディアは広報の意味合いが強い。最近でも、新たに出版社の取材を認めました。強豪校に偏った報道ではなく、どのチームも平等に扱うという約束を交わしました。高校野球ファンを広めるような報道は大歓迎です。

Q高校野球の意義は

高校野球は、チームの仲間だけでなく指導者など世代を超えてあらゆる人たちと密な信頼関係を築くことができます。お互いに色んな情報を交換、共有することで人間として成長できる。そこが高校野球の素晴らしいところ。一方、最近の勝利至上主義の影響でそうした人間関係が希薄になってきていると感じています。高野連は全部員の面倒を見ようと思ってやっていますが、上手な選手だけを目にかけるような風潮になれば部活動ではなくなってしまう。高校野球は人間関係を学んだり人生を教える教育の場。指導者はそこを忘れてはいけません。

Q高校野球の魅力とは

プロ野球に比べて技術面ではかなわないが、球児の一生懸命さは見る人の心を強く惹きつけます。勝利至上主義ではない、彼らの純粋で筋書きのないドラマが見られるところが最大の魅力でしょう。

【今、群馬が関東で一番熱い】

Q来夏の大会で100回目を迎えますが、何か新しい取り組みを考えていますか

開会式は楽団やマーチング、フラグ隊などを各校から集めて賑やかにセレモニーをしたり、混声合唱団に「栄冠は君に輝く」を歌ってもらうなど様々なアイデアを考えています。もう一つは大会記念誌の発行。91回大会から10年分をまとめるか、さらに過去の大会も含めたものにするかを今、検討中。節目の年ですから、関係各所と連携し球児にとって記憶に残る大会にできたら良いですね。とはいえ、実際に形にするのは大変。派手にやるより環境を整え球児たちに試合に集中してもらいたいというのが本音です。

Q群馬の高校野球事情を教えて下さい

他県の関係者から「今、群馬が関東で一番熱い」と評価されています。最近、全国大会で大きく勝ち越していますから、注目度は非常に高い。指導者も選手も確実にレベルアップしています。今夏も群馬が最強でしょう。何といっても前橋育英、健大高崎、この2校の存在が大きいですね。

Q今大会の見どころは

育英、健大の2強をつぶす勢力が出てくると面白い。しがらみのない学校がどんどん強くなっています。大物食いのチームも多く目が離せないですね。逆に伝統校は昔の栄光を拭い去らなければ置いていかれてしまうでしょう。指導者の意識改革が必要です。私学有利も仕方ありませんが、公立校は引きずり下ろす気概がないといけません。公立私立関係なく、お互い切磋琢磨しながら大会を大いに盛り上げて欲しい。

Q球児に伝えたいことは

野球は人生の縮図。試合での駆け引きや勝負に対する姿勢など色んなことが学べます。練習は厳しいかもしれないが、苦しい経験は高校3年間だけでなくその後の長い人生をきっと豊かにしてくれるでしょう。敵味方関係なく、野球が好きな仲間と共にプレーできる喜びを感じながら、真剣勝負をしてもらいたい。

Q高校野球ファンへメッセージをお願いします

駐車場や入場口の対応、グランドの整備、医療体制など、大会運営には多くの人たちの協力が欠かせません。来て下さる人に楽しんでもらえるよう、関係者が一丸となって万全の体制を整えています。ファンの皆さん、是非、球場に来て球児たちのひた向きなプレーに熱いエールを送って下さい。

文・林哲也/写真・中島美江子

【プロフィル】Tarumi Naoto
57年高崎生まれ。農大二高、早大卒後、県内の高校教諭に。伊勢崎女子高、高崎東高、高崎高、吉井高を経て、09年4月から県高等学校野球連盟理事長に就任。県高野連事務局のある前橋工業高校で教鞭をとる傍ら高野連の業務に携わる。日本高等学校野球連盟評議員。これまで高崎東高で野球部監督、高崎高で野球部長を務めた。来年3月末で同理事長退任。高崎在住。

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