art & ecosystem  アートを通して ~持続可能な共生社会を考える~gunma未来創出

住友文彦 Fumihiko sumitomo × 片山真理 Mari katayama× 渡邉辰吾 Shingo watanabe

新型コロナ
いま、置かれたところから 立ち上がる一歩を

―三者三様の立場から今後の可能性を探る―

新型コロナウイルスに世界が直面し、ここ群馬でも健康はもとより仕事や経済、学校など日常生活が脅かされている。持続可能な共生社会を目指し、イノベーションを続ける建設業、ソウワ・ディライト(前橋市小屋原町)の渡邉辰吾社長が、これまで交流を深めてきた識者2人と一緒に、今後の社会の変化や可能性を探る。
キュレーターとしても研究者としても活躍するアーツ前橋(前橋市千代田町)の住友文彦館長は、神奈川の自宅から、優れた成果をあげた新人に贈られる木村伊兵衛写真賞を先日受賞し、昨年イタリアで開催された国際芸術祭「ヴェネツィア・ビエンナーレ」など世界的に活躍の幅を広げるアーティストの片山真理さんは、伊勢崎の自宅から、渡邉社長は前橋の会社からそれぞれ画面を共有したオンラインの参加になった。館長として、アーティストとして、経営者として語り合ったオンライン座談会で生まれたものは。

現状はどのようになっている?

渡邉 住友さん、先日はアーツ前橋の企画展「前橋の美術2020―トナリのビジュツ」に参加させていただきお世話になりました。

休館中でもウィンドウ越しに作品を見られる試みが行われたアーツ前橋

住友 中止になって残念でしたが、話し合いはできました。私は緊急事態宣言が広がってからは、自宅にいます。神奈川に住んでいるので、前橋の人たちも心配して。これまでも、東京や海外のアーティストともオンライン会議をしていたので、リモートには移行しやすいです。渡邉さんの会社はどうですか?

渡邉 会社は、在宅勤務にしたので、現場と家との往復です。でも建設業界では、なかなかリモートは難しいです。建築現場は体を動かしモノを作ることが中心なので。また、相手が対応できていないと、どうしても行かなくてはならない。新しい文化に触れてもらおうと会社ではリモートにしましたが、限界も感じます。

片山 こんにちは。私は、熊本で開催を待っている展覧会が1つとそれ以外はほとんど全て中止か延期になってしまいました。1年先にずれ込みましたが、それも分からない状態で、国や県などの連絡を待ちです。おかげさまで受賞できた木村伊兵衛賞の展示もかなり早い段階での中止が決まりました。でも、それぞれの対応が異なり面白く見えました。生活に関しては、娘が自粛休園。主人と一緒に粛々と伊勢崎国定で田舎生活をしています。

家族や社員も悩む日々

渡邉 コロナでは、もちろん健康が心配ですが、経営者の視点から言うと、恐らく半年、2年で倒産や廃業など経済的な変化が起こるでしょう。短期的には資金繰りに苦心しています。もちろんリストラをするつもりは全くないですが、この中で最適なことは何だろうか、今後どのように進めていけばいいのかなど悩んでいます。
社員1人ひとりも不安なようです。特に若い社員が、「社長、この先、どうなりますかね」とコロナ鬱ではないですが、悩み始めている。また、小5の娘も「友達に会えないのがつらい。いつから学校が始まるかな」と下を向いています。子どもは、学校に行けないから、かなり気にしていますね。

片山 確かに、コロナの後の経済の問題はきついですよね。実は今回、2歳の娘が、PCR検査受けたのです。40度の熱が3、4日続いてしまって。ご飯は食べていましたが悩みました。検査を受けたら、結局、陰性で結果的にはほっと胸をなで下ろしましたが、コロナに対する恐怖心を感じました。
感染についても、あまり気にしない人もいれば、すごく気をつけている人もいる。人によって差異が明らかです。もし、私だけの人生で、私だけのことを考えていればいいのなら、聞き流せると思いますが、「家族がいる」「おじいちゃん、おばあちゃんを介護している」「従業員がいる」など、それぞれのストーリーが多様なほど、反応や態度が全然違うように思います。

アーツ前橋休館でも、今できることを

住友 「前橋の美術」の会期は2月15日から3月15日でした。後半に見に行こうと思っていた人たちが見られなかったのが残念でしたし、イベントも中止にせざるを得なかった。ただ、様々な話し合いを持てたのは良かったです。また、休館中の美術館のウィンドウ越しに、来た人が見られるようにしました。作品をただ搬出するのではなく留めておいて、ブラインドを上げておきました。全体からは大きいアクションではないかもしれないけど、ただ閉まっているのとは違って良かったですね。

渡邉さんが出品したデジタルアート「doors」(前橋の美術2020)
ⓒ渡邉辰吾

渡邉 自分は、ちょうどドンピシャ。「doors」という作品を3月1日から1週間の予定で展示するはずでしたが、1日だけの展示になってしまった。でも多くの人に来ていただきありがたかったです。住友さんのおかげもあって、「転んでもただでは起きない、出来ることを探そう」とアーティストたちが一丸となった変化がすごいなと思いました。

 

生活や思考が激しく変化

片山 インターネット上の仮想空間で、高校生がデートしていると知り、驚きました。以前もネット上では、アバターなど別人格の分身を作って動かすのを見たことはありましたが、それは、「やりたい人」「選択した人」など特定の人だけがやっていたことでした。ところが、今となっては、全員が平等にネットの画面でそうならざるを得ない。追い込まれた感じに興味を持ちました。
以前から、人に会うときは、「人に会うとき用の片山真理」になって、もちろん義足を履いて会っていました。でも、現在はZOOM(テレビ会議システム)やネット環境があれば、家にいてもみんなと会えるようになりました。

住友 ネット上でデートする高校生がいるのですね。昔だったら、ヒエラルキーがあったかもしれない。スポーツが得意でクラスで目立っている子が「俺たちはバーチャルはやらない」と。でもどんどんフラットになっていきますね。この状況では、明確に既得権益化されていたヒエラルキーを、振り返り、見直しすることになっています。

渡邉 人間社会のヒエラルキーには、限界があります。地球と生態系に負荷をかけない新しいビジネスモデルを「エコシステム」と呼んでいます。自分だけが儲かればいいという経済至上主義ではなく、地球上に一緒にいる動物や植物と人間とが、どう持続的に共生していくかを考えている。「人間社会のヒエラルキーを追求した結果が、コロナを生んだ」と言っても過言ではないのです。「お金をたくさん稼ぐ」「いい学校に行く」と旧態依然の物差しの中で考えていくと、必ず弊害が生まれてきます。

今こそアーティストの思考を
企業に取り入れる

住友 「不要不急」の中にアートや文化が入るのか、美術と社会の関係について議論が巻き起こっていないのが残念です。以前から人々は、不確実なことにずっと向き合っています。例えば、「これまでは良かった」と安全で確実なことにしがみつこうとすると、逆に生き延びて行けないのではないでしょうか。アートとか歴史は、自分と全然違う考え方を想像することができます。今、自分が思っているだけではない「モノの見方」というものが、こんなにたくさんあるんだと気付きます。

木村伊兵衛写真賞の対象作品の1つである初の写真集「GIFT」
(ユナイテッドヴァガボンズ)

片山 私も今後、どういう作品を作り、どういう風に伝えようかと考えています。引っ越してから1年になりますが、実は、近所の方に職業をずっと言えなかった。なるべく目立たないで、こっそり暮らした方がいいのかと思っていた。でも、それは将来に対して不誠実な態度だなと思いました。「文化やアートが重要なんだ!」と大きな声で言えないようにしたのは、自分たちなのだと思います。

住友 企業の人たちとアートが、話し合う機会は、たくさんあるけど、「商品やデザインを少々良くする仕事をアーティストに頼もう」ということに留まっています。
70年代に、イギリスでジョン・レイサムというアーティストがいて、パブリックアートに、何千万円を使うのなら、アーティストを役員として雇用し、企業の考え方を変化させるような重要な局面に、関われるようにしたプロジェクトがありました。

渡邉 実は最近、システム系の会社の顧問になりました。経営会議に参加させていただいています。大きな企業でも、なかなかクリエイティブさが生まれないし、社員だけで社内文化を変えにくいと感じます。他の会社で自分の意見を聞いてもらえるのは楽しいですし、やりがいも感じます。

 

変化しなくてもやっていけるのか?

住友 これから経済が大変になります。それでも、「まだ変わらなくてもなんとかなる」、あるいは「変わろうにも変われない」ところが、実は多いのではないかと思います。でも、実際に変わるときには、自分たちの発想だけではできない。
アメリカの富裕層の人たちが美術館の評議会メンバーになっていますが、多くが経営者です。コレクターでもありますが、経営者として関わっている部分とコレクターとして関わっている部分がある。彼らは明確で、「マーケティングでは、理解できない世界のことを知っておきたいし、限界を分かっていないと間違いも犯す」という訳です。そのために「マーケティングと関係ないロジックで動くアートに関わり、触れていく」と言っています。

片山 先日、展示会を行ったアメリカのミシガン大学附属美術館には、ビジネスや工学など大学の各学科の学生が頻繁に訪れています。卒業しても美術館に寄附をして、評議会にも参加している。経営者として成功した卒業生

ontheway(片山真理さん提供)

は、「今があるのは、大学に美術館があったおかげ。後輩にも繋げたい」と言っていました。無料で入館できるので、地域の人や保育園児、小学生も気軽に訪れ楽しんで勉強していく。この美術館のあり方にすごく感動しました。

住友 うれしいね。すばらしいことだね。

渡邉 教育的な部分が重要だと思っています。若者に話しかける機会がありますが、「どうやって食べていくのですか」「どうやって生活したらいいのですか」と言う。「まず、自分でやろう」ではなくて、誰かにやってもらうのが当たり前という考えです。生き抜く力が弱いですよね。若者に限らないですが人に頼ることばかり。若者の自立を、教育的な部分でアプローチしていきたい。このままだと未来がなくなってしまいます。

住友 片山 渡邉さん、教育は本当に大事なので、学校を作ってください(笑)

未来を見つめて、持続可能な共生社会を考える

渡邉 今回、世界は運命共同体であると嫌でも認識させられました。これから多くの人とお互いにアイデアを持ち寄り、持続的に共生していく「エコシステム」という新しい形に取り組んでいきたいと思います。権力や売上ばかりを見ていた今までの硬直していた概念が、このコロナのきっかけにして、ちょっとほどけた気がします。実は、今後、新しい世界が見られるんじゃないかとワクワクしています。

片山 日中は仕事ができないなど、現在は育児に合わせた仕事や生活の仕方です。でも、「今まで、何でこんなに焦っていたんだろう」と思

っています。コロナが終わって、終わることはないかもしれないけど、これからの世界や生活にすごく良い影響にはなっている。私にとってはですがね。

座談会に出席した3人のメンバーと朝日ぐんま記者

住友 無理やり元に戻ろうとする前に、立ち止まってこういう風に色々な人たちと話すようにしたいですね。これまでも、感じていた問題が炙り出されています。目を背けるのではなくて、見つめる努力をしたいですし、そういう風にすると、きっといい社会になるだろうな。他人事ではなく、アーツ前橋も自分自身も変えていかなくてはならない。多分、突き付けられていると思う。

渡邉 様々なお話ができてよかったです。住友さんや片山さんのお話を聞いていて、ちょっと前向きになれました。
(聞き手 谷 桂)

 

住友文彦 アーツ前橋館長/東京藝術大学大学院准教授
1971年埼玉県生まれ。東大大学院総合文化研究科修了後、金沢21世紀美術館や東京都現代美術館に勤務。「あいちトリエンナーレ2013」などアートプロジェクトにも携わる。「キュレーターになる!」など著書多数。神奈川県から前橋に通勤。

 

片山真理 アーティスト
1987年生まれ。群馬県太田市で育つ。群馬県立女子大卒、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。9歳の時に両足を切断する。自身で装飾を施した義足を用いたポートレート作品やインスタレーションを制作。主な展示に、「六本木クロッシング2016」(森美術館)、「帰途」(群馬県立近代美術館)など多数。19年、国際芸術祭「ヴェネツィア・ビエンナーレ」に招聘。第45回木村伊兵衛写真賞受賞、伊勢崎市在住。

 

渡邉辰吾 株式会社ソウワ・ディライト代表取締役CEO
1976年前橋市生まれ。群馬県立中央高校を経て、明治学院大学社会学部卒。26歳で家業に入り、14年1月から現職。群馬県優良企業表彰にて優秀賞(商業・サービス部門)受賞(2015)。企画展「前橋の美術2020-トナリのビジュツ」では「doors」を出展。前橋市在住。