想像力 [イスラム主義勢力タリバンがアフガニスタンで実権を握ってから1カ月あまり…]

総局長日記タイトル画像

イスラム主義勢力タリバンがアフガニスタンで実権を握ってから1カ月あまり。人権を制約する「恐怖支配」を心配するアフガン人たちが離職し、避難民化する事態が起きています。

「タリバンから死刑判決が届いた」「指名手配されて逃げている」。国際協力学が専門で、断続的にアフガニスタンで働いてきた福岡大准教授の林裕さんのもとには、窮状を伝える旧知のアフガン人から続々とメールが届いているといいます。

日本に協力してきたアフガン人500人に対し、政府は国外退避を試みましたが、林さんは危険が迫る元協力者はもっといると訴え、「地元の国会議員に『退避を求める人に救いの手を』と手紙を書くだけでも大きな力になる」と一人ひとりの支援を呼びかけます。

米同時多発テロから20年。米ブラウン大の研究チームの推計では、一連の対テロ戦争の費用は20年間で8兆㌦(約880兆円)にのぼり、死者は米兵や敵対勢力、一般市民合わせて90万人前後。暴力の連鎖、応酬の果てに広がる救いのない現状を自分事と受け止めなければ。

〈たいていの人は吸い飲みで水を飲んでから死ぬが、/その暇もなかった子供たちがいる、〉読売新聞の政治部記者を経て詩作に専念した故・中桐雅夫の「想像力」と題する詩の一節です。〈向こう側の国と、こちら側の国とがある、/向こう側に弟や妹がいたら、と想像するのはおかしいか、/肉を食べたことのない子供たちを想像するのはおかしいか、/それほどの想像力も、きみらはもっていないのか。〉

(朝日新聞社前橋総局長 本田 直人)

掲載内容のコピーはできません。