「のさり」と生きる[2月23日号]

震災支援へのお礼などのため来県した熊本県の「くまモン」が、サプライズで草津温泉を訪れたそうです。温泉のマスコット「ゆもみちゃん」のツイッターが17日、感激した様子で投稿していました。本白根山噴火の影響が残る草津への温かい応援です。

その十日ほど前、草津温泉に来た友人一行にも、熊本からの来訪者がいました。老いや病を地域で支えるケアに取り組むNPO代表の竹熊千晶さん。大学教授ですが、当初から研究を志したのでなく、保健師として働いた天草の離島で「のさり」という言葉に出会ったのが、契機だといいます。

家族に障害や介護が生じた状況を「私の『のさり』だもん」と表現し、何十年も世話する島の人がいる。「分け前」「恵み」を意味する方言は、豊漁など幸運に使われる一方、苦難においても用いられる。「良いことも悪いことも、天からの授かりもの」。不運もまた運命と受け入れることを支える言葉の役割と伝承を、研究で明らかにしました。

6年前に取材で聞いた話を想起したのは今月10日、作家・石牟礼道子さんの訃報に接したからです。天草に生まれ、不知火(しらぬい)海をはさんで対岸の水俣育ち。代表作「苦海浄土」は、恵みの海が有機水銀で汚染され、漁民たちが病苦に突き落とされる不条理を描きました。「水俣病はのさり」と言う患者、庶民の生き様を「魂が深い」と言い表しました。水俣病の公式確認から今年で62年。今も2千人が患者と認めるよう声を上げ、1500人が裁判を続けています。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)