アーティスト 片山真理さん

「居場所が出来たという安心感と開放感で、毎日が楽しい」と笑う片山さん=伊勢崎

「毎日ギリギリですが焦らず慌てず、10年単位で持続可能な活動を続けていきたいですね」

自身で装飾を施した義足を使用したセルフポートレートやインスタレーションで知られる。現在、世界最大かつ最も権威のある現代アートの祭典「ヴェネツィア・ビエンナーレ」の企画展「May You Live in Interesting Times」に、代表作や新作など13点を出展中だ。今月中旬からはアメリカで個展を開催するなど、活躍の舞台は世界中に広がっている。今春、伊勢崎にアトリエを移した気鋭アーティストに、ビエンナーレや作品制作、郷里への思いを聞いた

 

【ヴェネツィア・ビエンナーレ】

イタリアで11月24日まで開かれている国際美術展「ヴェネツィア・ビエンナーレ」の企画展に、代表作や新作など13点を出展している。

ビエンナーレ出品作「bystander023」
ビエンナーレ出品作「ontheway001」

世界最大の現代アートの祭典「ヴェネツィア・ビエンナーレ」に出展

「あぁ、ヴェネツィアに来たんだなあ」

ービエンナーレ出展のお話を頂いた時の気持ちは

冗談かなと(笑)。昨夏、キュレーターから連絡が入り、東京で作品を見てもらうことになったのです。海外の個展準備やアトリエ探しで忙しかったのですが、こんな機会はないと必死で間に合わせました。こちらの制作意図を正確に読み解いて下さり、その2カ月後にオファーを頂きました。嬉しかったですね。
ー開幕に合わせヴェネツィアに行かれたとか
4月下旬に訪れましたが、街を歩いていると見ず知らずの人が口々に「コングラチュレーション」と声をかけてくれるのです。本当に感動しましたね。街の反応に触れ、「あぁ、ヴェネツィアに来たんだなあ」とようやく実感できました。

ービエンナーレを見て感じたことは

今回のビエンナーレのテーマは「May You Live in Interesting Times(数奇な時代を生きられますように)」。これは、古代中国の呪いの言葉だと誤解されたまま、イギリスで皮肉を込めて使われた言い回しのようです。“Interesting”には「数奇な」とか「苦しいことも楽しもう」といった意味が込められていて、価値観が多様化する複雑な「今」という時代を反映しているなと思いました。参加アーティストの男女比率は半々で、難民問題など政治的な作品や女性性を扱った作品が目立ちましたが直接的、攻撃的すぎず今回のテーマにあっているものが多い印象を受けましたね。
ーどのような作品を出展しているのですか
今回のテーマに沿って、キュレーターがセレクトしてくれた13点をヴェネツィア市内の2箇所で発表しています。ジャルディーニ地区ではセルフポート、アルセナーレ地区では写真とオブジェによるインスタレーションを展示していますが、どちらも現地の人の反応は良く嬉しいですね。

トライ&エラー繰り返しレベルアップ

ービエンナーレに参加し制作への意識の変化は

残念ながらその境地には達していません。出展したことで様々なオファーを頂いているのですが、帰国したら家には娘も夫もいて近所には牛もいっぱい(苦笑)。仕事と日常のギャップがありすぎて、現実に対応しきれていないというのが本音です。

ー制作に集中できない状況にあるのでしょうか

ビエンナーレに出展したからという訳ではなく、子育てもあるので出産前のような制作は出来ないですね。今までの作品を超える新作を作りたいのですが、過去の作品を再構成する時間も取れません。オブジェやコラージュのように時間がかかるものは作れないので、シンプルな写真作品が多くなりました。ただ、妊娠前の2016年頃、かなり煮詰まっていたので娘が生まれてなかったら作品を作り続けていたか分かりません。子どもが出来、守るべきものが出来たことで、自分のいる世界が凄く広がったし体力も根性も付きましたね(笑)。

ービエンナーレの出展で得られたことは

ビエンナーレのように大きなプロジェクトになると、自分一人では絶対にできません。作品の規模に加え、考え方の規模が大きく視野が広くなったと思います。ただし、多くの人が関わってくると良いことも悪いことも増えていく。アーティストって基本、人付き合いが苦手な人が多い。私もそれを避けるためアートに向かってきたのに、一番苦手なことをやらなければいけない状況にちょっと戸惑っています(苦笑)。トライ&エラーを繰り替えしながらレベルアップしていくしかないですね。

居場所が出来たという安心感と開放感

ーアーティストとして大切にしていることは

以前、アーツ前橋のアーティスト・イン・レジデンス事業に招聘された時、住友文彦館長から「アーティストは、そこにいるだけで良いんだよ」と言われました。作家が地域に滞在し、そこに住む人たちと交流しながら制作するというプロセスの中で残るものが重要だと教えられましたが、実際、私も街なかで色んな方とコミュニケーションを取りながらセルフポートレートを完成させました。アーティストの仕事って作品を作ることだけではなく、そこにいるだけで周りに様々な化学反応を起こしていけるような「存在」だと思います。だから、日々の暮らしや生き方を大切にしたいですね。

ー今春、伊勢崎にアトリエと自宅を構えました

街なかのマンションから郊外の一軒家に引っ越したのですが、自然が多く静かでとても気に入っています。居場所が出来たという安心感と開放感が得られ毎日が楽しい。「国定(伊勢崎)から世界へ」じゃないけれど、気の向くままに海外へ出かけていき、また「自分の巣」に戻ってくる。何かを表現する人にとって拠点を作り、地固めをするのはすごく大事なこと。地盤が揺るんでいたらジャンプできません。そういう意味でも土地が硬い群馬は、ちょうど良いんじゃないでしょうか(笑)。

ー転居後の今年5月には東川町国際写真フェスティバルで新人作家賞を受賞しました

娘が生まれてからは、一番身近な表現手法がカメラになり、写真と真剣に向き合うようになりました。「まさか、こんなに険しく深い谷だったとは」と、写真に出会うたびにゴクリと生唾を飲む日々。そんな時、このような賞を頂き本当に恐れ多くて(苦笑)。受賞後、一人でひと悶着したことにより、写真がちょっとだけ身近になりました。写真家にはなれなそうですが、これからも撮り続けていけたらと思っています。

10年間やり続けてきた結果「今」がある

ー今後の予定を教えて下さい

今月からアメリカで個展が始まるので今、超忙しいですね(苦笑)。来年はヨーロッパでの個展と東京でのグループ展などが決まっています。

ー今後の目標は

これまで10年間やり続けてきた結果「今」があるので、この先また10年やれば何か見えてくるでしょう。自分が今どこにいるか、だんだんと分かってきました。毎日ギリギリですが、焦らず慌てず10年単位で持続可能な活動を続けていきたいですね。

ー群馬のファンの皆さんにメッセージを

芸術文化は人によって作られます。人が暮らすのは地域。ですから、地域と人が豊かになることが大切で、自分の住むアトリエを地域のサロンのような場所にしていけたら良いなと思っています。自分と関わる全ての人が、楽しく自分らしく生きられたら素敵ですよね。アーティストとして、そんなことを夢想しています(笑)。

(文・写真 中島 美江子)

 

プロフィール
かたやま・まり/87年埼玉生まれ、群馬育ち。先天性の四肢疾患により9歳の時に両足を切断。2012年、東京藝大大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。同年、若手アーティストの登竜門「アートアワードトーキョー丸ノ内グランプリ」受賞。13年「あいちトリエンナーレ」に招聘。六本木クロッシング(16年)など様々な国内外の展覧会に参加。自身で装飾を施した義足を用いたセルフポートレートの作品制作のほかに、「ハイヒール・プロジェクト」として歌手やモデルなど多岐に渡り活動している。19年、国際芸術祭「ヴェネツィア・ビエンナーレ」に招聘。伊勢崎在住