壁掛けと壁紙と[8月10日号]

「ウィリアム・モリスと英国の壁紙展」(群馬県立近代美術館、朝日新聞社主催)を26日まで開催中の同館で、思わぬ作品に遭遇して目を奪われました。同時開催する同館コレクション展の大きな壁掛けです。ピカソの「ゲルニカ」。原画とほぼ同寸の織物です。

壁掛けのゲルニカを、ニューヨークの国連本部で観たことがあります。ちょうどイラク戦争開戦を控えた頃。市民への無差別爆撃に衝撃を受けて描かれ、反戦と抵抗を象徴する絵を原画とする壁掛けが、イラクへの武力行使を巡り各国の思惑の飛び交う安全保障理事会前にあることに、希望と無力感の交じった感情を抱きました。

国連に飾られた作品は1作目。ピカソは色や縁取りに修正を加えて第2、第3の壁掛けも同じフランスの工房に制作を頼みました。同館が所蔵するのは、世界に3枚しかない作品のうち最後のものです。

モリス展にあたって、壁紙の原点は壁掛けだと学びました。最初は毛皮で防寒のため石造りの家に掛けたものが、織物技術の進展とともに神話や風景を絵柄として表現するように。版画や製紙の技術が高まると、より手軽な壁紙が装飾品として広まります。17~18世紀のことのようです。

19世紀に生きたモリスは思想家でもあり、大量生産にあふれる社会で、手仕事を大事にしました。20世紀の巨匠ピカソもまた、壁掛けを通じて芸術作品に伝統的な職人の技法を採り入れ、手仕事の価値を高めようとしたといいます。芸術と社会、そして政治。21世紀に生きる私たちが、その関係を考える機会となる企画です。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)