大川美術館長 田中 淳 さん

「多くの人に親しんでもらうため硬軟織り交ぜた展示や企画をしていきたい。GW中は子ども向けワークショップも行いますので是非、ご家族で遊びに来て下さい」と話す田中館長。看板「大川美術館」の文字は、桐生出身の世界的テキスタイルデザイナー故・新井淳一氏の揮ごう

「お客さまに楽しんでもらえることが一番大切です。
実力を認められなければ次の出番はありません。
これからが本当の勝負です」

「館単独ではなく、桐生市の人たちと連携しながら『大川美術館の未来』を創造していきたい」

織都・桐生を一望する水道山中腹に建つ大川美術館が明日20日、開館30周年を迎える。同市出身の実業家・大川栄二さん(1924~2008年)が収集した夭折の画家・松本竣介や野田英夫の作品をはじめとする日本近代洋画を主軸に、市の支援を得て平成元年に誕生。現在、竣介らと人間的な繋がりのあった国内外の画家による約7000点を収蔵、私設美術館としては全国屈指のコレクション数を誇る。開館30周年、竣介没後70年を記念し、昨秋から今年末にかけて同館中心画家である竣介の企画展を全4回シリーズで開催しているが、年間を通して展示される竣介のアトリエはクラウドファンディング(CF)で資金を募り復元したもの。美術館が企画展の費用の一部をCFで賄うのは全国的にも珍しく、大きな話題を呼んだ。独自の館運営を担う田中館長に館の歩みや30周年への思い、記念企画展や目指すべき美術館像について聞いた。

【作品と鑑賞者の距離が近い】

Q貴館コンセプトを教えて下さい

1989年4月、初代館長を務めた大川氏が私財を投じて開館した当館は、一貫して「逢いたいときにいつでも逢える絵画の館」をコンセプトに掲げ活動してきました。企業の社員寮だった建物を改修しているため、小さな展示室がいくつも連続するユニークな空間になっています。各室にソファーを設置、自宅にいるようなゆったりした雰囲気の中で絵が楽しめる館を目指しています。

Q貴館の特徴や魅力は

当館の天井高は一般住宅とほぼ同じ高さ。応接間にいるようで、作品と鑑賞者の距離が物理的にも心理的にも近い。5階建ての建物は迷路を巡るような独自の構造になっており、そこも大きな特徴の一つ。通常のホワイトキューブとは違う、当館ならではのレトロな佇まいを活かした展示をしていきたいですね。

【竣介の全体像を見つめ直す】

Q昨秋から記念企画を全4回シリーズで開催しています

昨年は竣介没後70年、今年は開館30年とメモリアルイヤーが重なったため、竣介の画業を1年を通して紹介しようと企画しました。これまで、「アトリエの時間」「読書の時間」を開催し今月16日から「子どもの時間」がスタートしました。今秋から始まる「街歩きの時間」で完結します。竣介の回顧展の場合、通常100~150点近く展示しますが、当館の企画展示室に飾れるのは40点が限度。ならば、会期を分けて竣介の画家像や人間像をトータルに見せようと考えました。館の構造的な問題が大きいですが、逆に言えば当館の特性を活かした企画ともいえるでしょう。お陰様で、全国各地からお客様が来て下さり、改めて竣介の人気の高さを感じています。

Q竣介のアトリエを再現するためCFに取り組みました

回顧展の場合、初期から晩年までの作品を時系列に並べ、最後に資料類を展示するのが一般的ですが、それを逆にして最初にアトリエを見てもらうことで実際、どんな場所で描いていたのか、「創造の源」がどんな環境で生まれたのかを体感してもらおうと思いました。天井高が低く、一般住宅のような雰囲気もアトリエ再現には最適です。ただ、お金がない(苦笑)。どうやってねん出しようか悩んでいたところ、当館理事の一人からCFを提案されました。初の試みでしたが目標額500万円を超え700万円以上が集まりました。その半数以上が桐生の方です。30年間の活動をちゃんと見ていてくれたんだなと嬉しく思いましたし、また市民の方に愛されているなと実感しました。本当に感謝しかないですね。

Q4回シリーズの記念企画ですが、どんなところを見てもらいたいか 

「アトリエの時間」では竣介のいた「場所」や使っていた「モノ」、「読書の時間」では「智」、「子どもの時間」では家族への「愛」、「街歩きの時間」では「意思」をテーマにしています。人間を形作るのは環境、知性、情愛ですが、これらを統合する上で最も大切なのが「意思」、つまり「心」。画家にとどまらず、人間としての竣介の全体像を4回シリーズで見つめ直してみたいというのが大きな狙いです。そして、竣介という柱に加え、もう一つのキーワードが「桐生」。4回目の「街歩きの時間」で竣介が活躍していた時代、昭和モダンの趣が残る桐生を紹介します。また、展示に加え、当館の立ち上げや運営に深く関わっている桐生市民や桐生を拠点に活躍するアーティストたちと鼎談し、当館の「これまで」と「これから」を「桐生」を軸に一緒に考えていきたいですね。

【桐生市の大川美術館へ進化】

Q今後の館運営で特に力を入れていきたいことは 

記念企画に限らず「桐生」をフィーチャーしていくつもり。記念企画第2弾として、来年1月から桐生ゆかりのアーティストにスポットを当てたグループ展をします。その後も、桐生出身の世界的アーティストである、故・オノサトトシノブ氏や石内都氏、山口晃氏、桐生出身で日本人女性初の写真家 故・島隆氏なども取り上げていきたい。これからの30年を中長期的に考える上で、「桐生」という視点は欠かせません。

Q今市民に愛されるための取り組みを教えてください

毎年1回、市民文化会館で移動展を開いていますが、市民の方から「行きにくい」という意見を聞きます。水道山中腹という立地面もありますが、心理的な距離も大きいのでしょう。当館に一度も来たことがない市民がいるという現実を踏まえ、硬軟織り交ぜた展示や企画をしていきたい。GW中は桐生名物「ひもかわ」を作るワークショップをします。また、竣介作品をイメージしたアイスクリームを市内の店主さんと開発し、館内カフェで提供したい。桐生には面白い人がたくさんいます。タブーを作らず、多くの人を巻き込みなら何でもやっていきたいですね。

Q美術館の発展のために何が必要でしょうか

これからの30年間は、創業者である大川氏の個性や遺志を引継ぎながらも、より広い視野を持って「桐生市の大川美術館」へと進化させていくことが求められるでしょう。ソフト面に加え、老朽化に伴いハード面の改修も検討しなければいけません。一方、県内にある他美術館との連携も不可欠です。館単独ではなく、桐生の人たちや他館と連携を密にしながら、「大川美術館の未来」を創造していきたい。成り立ちも建物も一般の美術館とは違いますが、当館のポテンシャルは十分あると自負しています。「桐生市の大川美術館」として多くの市民が誇れる美術館、美術ファンに愛される美術館を目指し、そのための努力を続けていきたいと思います。

文・撮影 中島美江子

Tanaka Atsushi
1955年東京生まれ。東京芸大大学院美術研究科修士課程修了。東京文化財研究所副所長などを経て、2017年8月から大川美術館館長に就任。「画家がいる『場所』‐近代日本美術の基層から」など著書多数。千葉県松戸市在住