漫画家 林 明輝さん


原作のエッセンスを生かしつつ、映像と音楽でその世界観が更に豊かになった映画を劇場で楽しんで下さい

高崎市のラーメン店「清華軒」を舞台にした映画「ラーメン食いてぇ!」が、先月3日から全国公開されている。人生に絶望した登場人物たちが、ラーメンを通して生きる力と希望を取り戻していくストーリーで原作の漫画「ラーメン食いてぇ!」は清華軒が実家の漫画家・林明輝さん(59=さいたま市)が手掛けている。
主人公の女子高生役に扮するのはNHK連続テレビ小説「まれ」に出演した中村ゆりかさん、親友を演じるのは同テレビ小説「わろてんか」で主演した葵わかなさんと、その豪華なキャスティングにも注目が集まっている。
高崎映画祭最終日の8日、高崎シティギャラリーで行われる特別上映に、熊谷祐紀監督と共に舞台挨拶する林さんに、映画化や原作、漫画への思いなどを聞いた。

漫画の世界観を更に豊かに

Q映画化の話を聞いた時のお気持ちは

2015年4月に単行本が出た直後、制作会社レスパスフィルムの鈴木企画プロデューサーから打診がありましたが、作中に新疆ウイグル自治区のシーンがあるので、実現は難しいだろうと思っていました。16年秋、正式なオファーを頂いた時は夢想していたことが現実になり、本当に嬉しかったですね。もう、ひたすら感謝です。

Q映画にエキストラで出演されているようですね

実家の「清華軒」で撮影をしたいから、ロケハンの協力や職人の所作などを教えて欲しいと言われていましたが、まさかエキストラに駆り出されるとは(苦笑)。と言っても、僕と姉の家族が出演しているシーンは、あくまで役者さんの背景として映っているのでなかなか見つからないと思います。

Q制作にはどの程度関わっているのでしょう

事前に脚本を読み、違和感のあるところや気になった点をいくつか指摘させて頂きました。ただ基本、映画と漫画は別物。原作者としての思いはありますが熊谷祐紀監督に全面的にお任せしました。

Q今作の見どころは

原作の新疆ウイグル自治区のシーンは、映画では中央アジアのキルギス共和国でロケを敢行したのですが、その映像がとにかく壮大で、本当に美しいです。中村ゆりかさんや葵わかなさんといった旬の女優さんに加え、脇を固めるベテランの石橋蓮司さんや個性派の片桐仁さんなどキャスティングも素晴らしい。原作者ですから台詞も全部覚えているし、どう展開していくかも分かっていましたが観ていて持ってかれたというか思わず泣いてしまいましたね。原作のエッセンスを生かしつつ映像と音楽でその世界観を更に豊かにしてくれた映画を劇場で楽しんで下さい。

伝えたいのは人間の深い繋がり

Q原作の構想はいつから練られていたのでしょう

10年程前、親父の半生を記録しよう思い立ったのがきっかけです。話を聞いていると、製麺のくだりで「小麦粉は生きている」という父親に似つかわしくない、格好良い言葉が出てきまして(笑)。あ、これ漫画になるなって。実家の「清華軒」が舞台ですから、取材し放題でしたが、単なるドキュメントというか職人技の継承劇を描くつもりはありませんでした。普段から気になっていることを「紅い岩塩」や中央アジアと結び付け、よくあるグルメものを超えた物語を作り出す過程が難しかったですね。

Q作品で伝えたかったメッセージは

言葉にすると陳腐ですが、大きなビジョンを持てれば人は感情に流されず寛容になれるということ。中盤で主人公の女子高生が日本一のラーメン屋を作るため、自分を裏切った親友に協力をお願いするシーンがあります。許せたのは彼女が究極の目的を見つけたから。それをストレートに言うと説教臭くなるので女子高生が滑ったり転んだり、それを見ていてウルッとする親父を登場させたり、コミカルな要素を取り入れています。  あと、日本と中央アジアという時空を超え結びついていたかもしれない男同士の不可思議な関係を通して、人間の深い繋がりを描きたかった。読んでくれた人が国籍や性別など属性にとらわれず、自分の究極の目標を見つけてもらえたら作者冥利に尽きますね。

残り10%がリアリティーを生む

Q漫画家になったきっかけは

小さい頃から漫画を読むのも描くのも大好き。とりあえず美大に進み広告代理店に就職しましたが「いずれは漫画を描きたい」という気持ちがずっとありました。転勤命令が出たら辞表を出そうと思っていたら40歳で遂にその時が来まして。家族の理解も得られたので一念発起し漫画の道に進むことにしました。

Q影響を受けた漫画家は

何と言ってもちばてつや先生です。僕が小学生の頃の少年漫画は外連味の効いた作品が主流でしたが、ちば先生はヒューマンで日常の些末な描写をふんだんに取り入れていて、そこが俺的に新鮮で凄く心に響きました。作画以上にマインド的に大きな影響を受けましたね。

Qネタやテーマは、どう見つけるのでしょうか

自分の興味関心のあることが蓄積されていって、ある時、点が線になる瞬間が来るんです。それは、構想を練りながら悶絶している時もあれば、日常のふとした瞬間だったり色々。

Q漫画を描く上で心掛けている点は

下調べや取材を徹底的にした上で得られた事実を自分なりに咀嚼して描いています。90%は無駄になるが、残りの10%が作品にリアリティーを与えてくれますから。ただ、取材しすぎても飛躍できなくなるので、そこら辺のさじ加減が本当に難しい。

次は恋愛ものが描きたい

Q今後の目標は

今、生物学者・福岡伸一さんの提唱する「動的平衡」に傾倒しています。「私たちが生きているとはどういうことか」という生命の本質を深く説いていますが、それを漫画にしたい。とはいえ、「真面目な話」然としていてはダメなので恋愛ものにしようと思っています。大学生カップルを通して、動的平衡の考え方や奥深さ、面白さを表現するつもり。コンセプトは出来上がっているので、あとはリアリティーを追求するのみ。がっちり取材しないといけないので完成にはもう少し時間がかかりそうです。

Q群馬のファンの皆さんにメッセージを

パワフルな曲やポップな曲など、今まで歌ったことのない音楽に挑戦したい。海外でも活躍できるような実力をつけ、憧れのビヨンセと同じ舞台に立つのが夢です。思いやりや大和魂といった日本人が持っている「精神性」を歌を通して世界に向けて発信したい。

Q群馬のファンにメッセージを

各関係者の情熱と心意気で、映画化が実現しました。原作者の僕から観ても良い作品に仕上がっています。宣伝予算がなくPR活動があまり出来ていませんが、掛け値なしに感動できるので一人でも多くの人に観て欲しい。高崎映画祭最終日の8日には、僕と熊谷監督が舞台挨拶しますので皆さん是非、お越し下さい。お待ちしております。

文・写真/中島美江子

はやし あきてる

1958年高崎生まれ。市内で中華料理店「清華軒」を営む両親のもとで育つ。3人きょうだいの次男。東京芸大卒業後、大手広告代理店・博報堂に入社。17年間、デザイナーとして活躍。2000年、「モーニング」の第8回MANGA OPENで大賞を受賞し、漫画家デビュー。等身大の目線で若きボクサーを描いた「Big Hearts 」連載(2002~2004)全3巻、読み切り短編「宇宙人かよ!」「傘がない!!」を発表。 2015年2月、講談社のWebコミック「モアイ」で「ラーメン食いてぇ!」を配信、大きな反響を呼ぶ。同年4月、単行本(上下巻)刊行。埼玉在住。