童話作家 あんびるやすこ さん

愛猫エルキュールを抱くあんびるさん。自宅の壁には今まで描いた作品原画が飾られていた=千葉

女の子の「大好き」がギュッと

「ワクワクしたり、温かい気持になるような本を描き続けていきたい」

 

【1日10時間は執筆】

「先生の本が大好きです。手紙を書いてきました」「まぁ可愛いお手紙。どうもありがとう」—先月、渋川市立図書館が開いた講演会後のサイン会で、ファン一人ひとりと握手し言葉を交わす。その数100人以上。会場はサイン本を手にした子供たちの笑顔でいっぱいになった。
「なんでも魔女商会」(岩崎書店)「ルルとララ」(同)「魔法の庭ものがたり」(ポプラ社)シリーズなどで知られる。明るい絵と心温まる話は、子供だけでなく大人の心も捉えて離さない。現在、「魔女商会」は17巻、「ルルとララ」は14巻、「魔法の庭」は10巻まで刊行中。この3シリーズだけでも累計発行部数は200万部を超える。2カ月に1冊ペースで新刊を発表する超売れっ子。「1日10時間は描く。間に合わない時は徹夜。3日間起き続けていた時もありました(苦笑)」

【夢を諦めきれなかった】

子供の頃から本を読んだり絵を描くのが好きだった。将来の夢は漫画家かアニメーター。高校はイラスト部、大学は漫画研究会に入り画力や感性を磨く。が、卒業後は住宅メーカーに就職。一度は夢を封印した。「何不自由なかったけれど、やっぱり絵の仕事が諦めきれなかった」
1年半後、アニメーション制作会社に転職。「あんみつ姫」などのシナリオを読み、各シーンの背景画を1日10枚近く描いた。「早く絵が描けるようになったし観察力も身に付いた。何より子供向けの話の構成パターンがバッチリ分かるようになりましたね」 結婚後、玩具企画会社に移り、セーラームーンなど女の子向けのキャラクター玩具開発に携わる。女の子の好きな色柄や購買心理などを徹底的にリサーチ。ここで売れる商品を見極める目を鍛えた。
会社勤めは約20年に及ぶ。が、帰宅後や週末を利用し絵の創作はずっと続けていた。漫画家やアニメーターの夢は、いつしか絵本作家へと変わっていく。25歳の時、玩具会社に在籍しながら絵本作家デビューを果たす。やがて、児童書も手掛けるようになった。「ルルとララ」出版を機に二足のわらじを脱ぎ、8年前から作家活動に専念。「最初から『これっ』て決めていた訳じゃなくて、ちょっとずつ軌道修正しながら夢に近付いていった。色んな職業経験が全て創作の糧になっています」

【ファンタジーに実用性】

お洒落な洋服にアロマ、おいしそうなスイーツに可愛らしい動物—どの作品にも女の子の「大好き」がギュッと詰まっている。「魔女商会」では手芸、「ルルとララ」ではお菓子作りを切り口にするなど、読む楽しさだけでなく作る喜びも提案。「女の子ってしっかりしているの。ファンタジーに実用性がプラスされている物語を好む子が多いのよね」
とは言え、目指すのは大人にも満足してもらえる作品。「例えるならココアみたいにおいしい青汁のような本」 ココアはキュートな絵やカラフルな色やお菓子レシピ、青汁は作品のテーマやメッセージを指す。

【作品の芯は変わらない】

絆、思いやり、自分らしさ—作品の芯はいつも変わらない。が、「似ているとこがなくても仲良しになれる」「皆を幸せにするのが本当のマナー」「友だちが欲しくても嘘を付くのは良くないよ」といった優しく味付けした言葉を毎回盛り込む。登場人物のキャラも魅力的。怒りん坊だったり、心配性だったり、人付き合いが苦手だったり。皆どこか弱さを抱えている。「欠けているところが、かえってその人の個性や魅力になっていく。だから、否定したり隠したりしないでって伝えたい」

【大切なのは自分目線】

常に執筆に追われる日々。だが、手を抜くことは一切ない。「もちろん締め切りは守りますが、自分が納得するというか『これで良い』ってストンと落ちる瞬間までは絶対書き続けます。今までその感覚がないままに出した本はないですね」

真摯な姿勢に加え、大切にしているのが自分目線。「子供だったらこうするだろうという視線では考えたことがない(笑)。『こんなことがあったら私も傷付いちゃうな。でも、こんな風に励ましてもらったらきっと立ち直れるよね』って、いつも自分に置き換えて書いている」 この素直でフラットな感覚が、上から目線でない作品を生み出す。

【変わらぬスタンスで】

今月、ルルとララシリーズ最新刊を発売したばかり。来年2月は魔女商会シリーズ、3月はアンティークFUGA番外編、4月は魔法の庭シリーズと立て続けに出版する予定だ。「シリーズ本って大人でいうところの行きつけのお店のようなもの。今日は辛かったけど店に立ち寄ったら気分良く帰れるみたいな。マンネリにならないよう、でも今までと変わらぬスタンスで読む人がワクワクしたり温かい気持になるような本を描き続けていきたい」
新シリーズが気になるところだが、構想は既に頭の中にあるという。「色々あるんですけど、まだナイショなんです。ごめんなさいね(笑)」 ファンにはまた一つ楽しみが増えそうだ。

文:中島 美江子
写真:高山 昌典

【プロフィル】Yasuko Ambiru
61年前橋生まれ。東海大学文学部卒業。アニメーション制作会社や玩具企画会社を経て、絵本や児童本の創作活動に入る。主な作品に「こじまのもり」シリーズ(ひさかたチャイルド)「魔法の庭ものがたり」シリーズ(ポプラ社)「ルルとララ」(岩崎書店)シリーズなど。千葉在住。

 

〜あんびる氏へ10の質問〜

いい加減なとこがララに似てるかも(笑)

—本のキャラクターの中で一番似ているのは

どのキャラも自分の分身みたいだけど、特にララかな。彼女はクヨクヨしないし、いつもどうにかなるさって思っている。いい加減で何事もあまり気にしない所が似ているかも(笑)。

—好きな絵本作家は

イギリスの絵本作家ジャネット・アルバーグとアンジェラ・バレット。彼女たちの柔らかくて温かい色遣いが大好き。2人から、すごく影響を受けましたね。

—家族構成は

夫と猫のエルキュール。主人は編集者なので、仕事の話は良くします。アドバイスも的確なので助かっています。

—群馬のお気に入りは

たむらやのみそ漬け。冷蔵庫に常備している。特にダイコンとショウガが好き。あと、吉田七味店の七味唐辛子も欠かせません。

—趣味は

着物。40過ぎてから着付けを習った。打ち合わせの時に着ていくこともある。

—好きな食べ物飲み物は 

フグと紅茶。アッサムをミルクティーにして飲むのが好きです。あとはワインとビールかな(笑)

—リフレッシュ法は

アロマをたいたり、紅茶を飲んだり、お風呂に入ったり。休日には夫とドライブをしたり映画を見て楽しんでいます。

—今、やりたいことは

海外旅行。イタリアの田舎に行きたい。都会より、人間と自然が調和し合っている田舎が落ち着きます。

—最近感動したこと

今年の誕生日に夫がサプライズ上海旅行をプレゼントしてくれたこと。1泊2日でしたが、とてもうれしかったです。

—愛用の画材は

カランダッシュの水溶性クレヨン=写真。発色が良く、粒子が細かいのでとても描きやすい。ファーバーカステルの色鉛筆も良く使いますね。

 

取材後記
少女のように純真で、愛らしくて、フワフワしていて、そばにいると陽だまりに包まれているような気分になる。自身の本の中から抜け出てきたような人だ。とはいえ、ホンワカした佇まいと柔らかな口ぶりとは裏腹に、創作への一途な思いと妥協を許さない厳しさをも合わせ持つ。公私共に親交の深い岩崎書店の島岡理恵子副編集長いわく、「とにかく真面目で誠実で思いやりのある人。温かい人柄がにじみ出ているからこそ、彼女の作品は子供からも大人からも愛されるのでしょう」
まさに「絵は人なり」、「文は人なり」だ。栄養満点、具だくさんスープのようなあんびるさんの本を読めば、心の芯からポカポカになること間違いなしだ。