雑誌ソトコト編集長 指出一正さん

自らもプロジェクトに携わった街の公園は、子どもが小さい頃家族でよく訪れたところ(東京都世田谷区)

子育ては、刻々と変化して予想がつかない気候変動みたいなもの

「社会や環境がよくなって、そしておもしろい」をテーマとしたソーシャル&エコ・マガジン「ソトコト」(東京都千代田区)の編集長として、全国各地で講演活動や情報発信をする高崎市出身の指出一正さん。第三の人口とも言われる「観光以上、移住未満」の人たちを指す「関係人口」の提唱者として知られ、 内閣官房の水循環の会議や環境省のSDGsに関する委員を始め、数々の地域プロジェクトに携わる。一児の父親でもある指出さんに、若い父親や母親などが主役になり、豊かで幸せなローカルな社会について聞いた

子どもの成長と編集内容がリンク

Q「ソトコト」はどのような雑誌ですか

「ソトコト」は、1999年に創刊以来、ロハスやスローライフなどを主なテーマにしていましたが、僕が2代目編集長になった2011年からは、ローカル(地方)とソーシャル(社会性)をキーワードにして発行。現在は、日本各地の地域やコミュニティーの在り方や課題を掘り下げて提案しています。

Q子育て世代の若い人を取り上げることも多いですね

編集長になって、大きく内容をモデルチェンジした最初の12年5月号の特集は、「社会みんなで子どもを育てる・ソーシャルな子育て」をテーマにしました。子連れで仲間と集まり、おいしく食べて語らう時間と育児が両立する新しい共助の形はとても良いと注目しました。自分自身、父親になったことが大きく作用したのでしょう。息子や家族の存在が雑誌の編集にも影響して、重なり合う企画ができたのは幸せでした。

Q お子さんが生まれたことで、他にも変化はありましたか

息子の誕生で、「考える視点」が広がりました。3・11の大震災の時は、2歳の息子を抱えて僕と妻は精神的に右往左往していました。でも、それをきっかけに、「コミュニティー」(地域社会)の大切さを再認識し、さらに、ずっと先の未来までも考えるようになりました。それまでは一方的なモノラルな見方でしたが、子どもがいることで複眼というかステレオ的になったと思います。それ以降は自分たち家族だけではなく、ソトコトでも未来に向けたメッセージの発信を大事にしています。

関係人口で地域が変わる

Q地方で幸せな子育てはできるのでしょうか

できますよ! その場所で幸せが見えなければ、見つけたらいいのです。幸せは何かと比較するものではありません。例えば、岐阜県各務原市に拠点を置く「一般社団法人 かかみがはら暮らし委員会」が主催する地域プロジェクトでは、若い人が1日に4万人も来るオシャレなイベントを6年もやっています。今まで人がそれほど来なかった場所が、子どもを連れて仲間とかっこいいマルシェを開くことで、多様な人々が集まり出会う。これこそが幸せではないですか。

Q関係人口が関与していますか

関係人口とは、「観光以上、移住未満」という第三の人口です。2016年以降、急ピッチで新聞やメディアに取り上げられ、今年は、「関係人口元年」と話題です。例えば、東京に住みながら、前橋、あるいは東北など地域に思いを寄せ、ファンになり地域づくりに関わる人のことです。子育てをしている若い人が、関係人口を生み出す豊かなコミュニティーを作ったり、あるいは自らが関係人口という行動形態をとったりすることで、地域は変わっていくのではないでしょうか。子育てする街や暮らしを面白くするのは、誰かに頼るのではなく、自分ごととして楽むことです。

Q若いママやパパのパワーを、全国でも感じますか

先日まで「SDGsローカルツアー」という催しをやっていました。全国で持続可能な未来について語り合いました。コロナウイルスの感染拡大で、ツアーは途中で中止になってしまいましたが大好評でした。その会場の前列に、若いお母さんたちがとても多かったですね。講演後には「すごく楽しかったです」と目を輝かせて声を掛けてくれる。地域づくり、街づくりには、若いお父さんお母さんの視点が入ったプロジェクトも多くなっています。

釣りからつながる関係づくり

Q家族とはどのように過ごしていますか

朝はなるべく家族で一緒にご飯を食べています。わずかな時間ですけど、小4の息子の音読を聞いていますよ。休日には一緒に好きな釣りや生命の循環を感じられる源流に行きます。豊かな森や美しい水、サルやカモシカに出合うとドキドキしますね。途中には人の暮らしもある。息子は結構、釣りが上手いですよ。でもね、近くに父親という先生がいると一番の興味にはならない。「おとうが行くと言うから、付き合ってやるか」みたいな感じです(笑)。

Q ご自身は、どんな子どもでしたか

高校時代まで高崎にいましたが、放課後に釣具店に行くのが楽しみでしたね。居酒屋の店主や公務員、友だちがいない東京からの赴任者など来る人も多様でした。釣具店は様々な人と出会える「関係案内所」とでも言うべき場所で、学びがあり実利もありました。情報交換したり、車を出してもらったり、「釣り家族」みたいな先輩たちにとてもお世話になりました。

子育ては予想が付かない

Q今後やってみたいことは

今まで僕は、「2代目」の編集長やサークル「副部長」、生徒会「副会長」とか、常に2番目キャラでした。今後は、ゼロからスタートするオリジナルなものをやってみたいですね。群馬や高崎でも、何かプロジェクトをやりたいなという気持ちはあります。

Q子育て中の人にメッセージをお願いします

群馬は本当に恵まれている地域。大きな街や、中山間地域もあり、谷川岳のような急峻な美しい風景もある。小さい子どもや思春期も大人も、一緒に時間を共有する場所として申し分がない。群馬に生まれて本当に良かったと思っています。
子育ては、しんどい時もあれば逆に愉快で輝いているタイミングもある。刻々と変化して予想が付かないのは、まるで気候変動みたいですね。振り返った時に、心が温かくなって幸せの1つとして感じられればいいですね。

文/撮影・谷 桂

さしで・かずまさ/1969年高崎市出身。高崎高、上智大学法学部国際関係法学科卒。雑誌「Outdoor」編集部などを経て現職。島根県「しまコトアカデミー」や福井県大野市「越前おおの みずコトアカデミー」など地域のプロジェクトに多数携わる。「関係人口」を提唱。著書に「ぼくらは地方で幸せを見つける」(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。