井上房一郎の跡[3月22日号]

高崎市の群馬の森にある県立近代美術館に初めて入った時、その建築デザインに魅せられました。聞くと、設計は磯崎新さん。建築のノーベル賞と言われるプリツカー賞受賞が決まった世界的建築家です。地方に美術館ブームが起こったバブル期の建物かと思ったら大間違いで、1962年に設立準備会ができ、74年開館。再び驚きました。

磯崎さんを推薦したのも美術館構想も、高崎の実業家井上房一郎(1898~1993年)の案だったと知り、うなずきました。当時、群馬に来てまだ半年ほどでしたが、群馬音楽センター建設や群馬交響楽団創設など、芸術活動へのパトロンぶりは耳に入っていました。

そんな時代の先を行く目利きを体感できる展覧会が今月末まで、高崎市美術館で開催中です。「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢」。音楽センター設計者でもあるレーモンドの自邸を模した旧井上邸とあわせ、生活と結びついた美術と哲学を感じ取ることができます。

展覧のはじまりは、ナチスから逃れ日本に亡命していた建築家ブルーノ・タウトと、高崎に迎え入れた井上の章。そこに井上がデザインしたというテーブルと椅子がありました。1932年ごろの作。タウトと出会う前の井上はわずかながらも創作活動もしており、椅子や机が山積みになっていたといいます。

今はまだ、井上と直接言葉を交わしたり支援を受けたりした県人や芸術家たちがいます。旧井上邸は市民らの活動などで残されましたが、井上の功績はもっといろんな形で語り継がれるべきではないかと思うのです。

(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)