群馬県立歴史博物館館長 右島 和夫 さん

群馬県立歴史博物館館長 右島 和夫 さん
「常設展と企画展の両輪で歴史の『起承転結』を楽しんで欲しい」と右島館長=綿貫観音山古墳から出土した国重要文化財「三人童女」=写真中央=などが展示されている「東国古墳文化展示室」

「『面白く、分かりやすく』をコンセプトに、幅広い層に楽しんでもらえる博物館にしたいですね」

「古墳王国・群馬」を象徴する埴輪を始め、群馬の歴史や考古に関する資料など10万点超の収蔵品を誇る。先月、開館40周年を迎えた県立歴史博物館は今年度、3つの開館記念展を企画。県内外の博物館や大学など多くの機関と連携した記念展は、いずれもクオリティーが高く大きな反響を呼んでいる。現在、開催中の「ハート形土偶 大集合!!」展は100回目の節目の企画展となり、東吾妻町郷原出土のハート形土偶を始め、縄文時代の多彩な土偶が勢ぞろいした。2016年の大改修を経て生まれ変わった歴史博物館のかじ取りを担う右島和夫館長に、開館記念展や博物館の歩み、その役割などを聞いた。

 

【最新、最高水準の研究成果を提供】

Q今年度、3回に分けて開館記念展を行っています

春の「大新田氏展」では南北朝時代に活躍した群馬ゆかりの武将・新田義貞とその一族に焦点を当て、夏の埴輪展では日本一の出土数を誇る「埴輪王国・群馬」を大々的に取り上げました。開催中の土偶展では36年ぶりに里帰りした東吾妻町出土のハート形土偶を中心に据え、多様な土偶とあわせ縄文文化に芸術性を見出した岡本太郎の作品も紹介しています。いずれも「群馬」を強く打ち出した企画になっていますが、群馬だけにとどまらず地域と地域、人と人の繋がりといった広い枠組みの中で歴史が形成されていくことを理解してもらえるような展示を試みています。

Q具体的に、どのように企画展を構成していくのでしょうか

最新かつ最高水準の研究成果を見て頂けるように、記念展を開催する際は毎回、大学教授など外部から専門家を招き博物館スタッフとプロジェクトチームを立ち上げます。開催の2年程前から、第一線で活躍する研究者たちと議論を重ねながら展示内容を組み立てていきました。展示のクオリティーはもちろん、学芸員のレベルアップにも繋がり、そのメリットは計り知れません。さらに、外部有識者とのプロジェクトと並行して、県内の市町村教育委員会や資料館など関連機関と連携し「オール群馬」体制で臨んでいます。お陰さまで、単館では到達できない密度の濃い企画展になりました。

Q3つの記念展は来館者が多く、いずれも好評です

学術的なことばかりを前面に出すと、面白くありません。最近、「刀剣女子」「古墳女子」「土偶女子」という言葉があるように、史跡や博物館を巡る女性が増えています。記念展でも、そういった世相に合わせ展示内容や見せ方などを変えています。広報もそう。若い人のセンスを取り入れるため、記念展のポスターデザインを県立女子大生にお願いしました。展覧会名を吹き出しにしたりピンクを全面に使うなど、我々博物館職員では思いつかないデザインは評判が良く集客に一役買っています。当館は新しい感性や視点が取り込めるし、学生は自らの活動を世に問える。記念展に限らず、大学との連携は積極的に進めていきたいですね。

【目に見えないが思いは必ず伝わる】

Q貴館のコンセプトを教えて下さい

「歴史を学ぶ場」というイメージが強いですが、それは博物館の一側面に過ぎません。「面白く、分かりやすく」をコンセプトに、幅広い層に楽しんでもらえる博物館にしたいですね。そのためには我々職員が面白がらないといけません。目には見えませんが、そういう思いは必ず伝わりますから。固定概念に捉われず職員皆でワイワイアイデアを出し合いながら、博物館を盛り上げていきたいですね。

Q2016年の大改修で展示内容を一新しました

常設展は古墳時代に焦点を当てた「東国古墳文化展示」と、原始から近現代までの「通史展示」で構成されています。東国古墳文化展示では、当時の群馬が東国文化の中心地として大いに栄えていたことが分かるでしょう。通史展示では資料や映像、模型などを時代ごとに紹介していますが、展示品の位置を低くするなど子供から歴史愛好家まで、見やすくかつ興味を喚起させるような展示を心掛けました。一方、企画展では最新最高レベルの内容を打ち出していくので、謎解きをしているような体験が味わえるでしょう。常設展と企画展の両輪で、歴史の「起承転結」を楽しんで欲しいですね。

Qリニューアル後、特に力を入れてきたことは

企画展関連の子供向けイベントを行うなど、普及活動を精力的に展開し若い世代や親子が気軽に楽しめる施設作りを進めてきました。夏休みには高校生ボランティアを募集し、歴史や考古学に興味のある学生と学芸員との交流を深めています。次世代の人材を育てる狙いもあり、学校との連携は欠かせません。

【中長期的な視点を持ってコツコツと】

Q館運営で心掛けていることは

近年、歴史ブームと言われ中高年を中心に歴史への興味関心が高まっています。新たな発見や気付きが得られる施設として、展示の充実に加え参加型事業にも力を入れていきたい。一方、群馬の歴史を解明するためには基礎研究を地道に積み上げていくことが大切。目先の面白さや受け狙いの展示をしていても、大きな結論には辿り着けません。近視眼にならず、中長期的な視点を持ってコツコツと館運営に取り組んでいきたいですね。

Q歴史博物館の役割とは

先人が残した歴史遺産を守り、後世に伝えるという使命を託されています。今、我々は大きな歴史の転換点にいますが、現代人が生きていく上で歴史に学ぶことの意義や郷土を見つめ直すことの重要性は益々高まっていくでしょう。先人たちは社会や自然とどう向き合ってきたか、関係をどう築いてきたか、博物館にはその情報発信拠点としての役割が求められています。群馬の未来を想像し、創造していく上で博物館は多くのヒントを与えてくれる施設だと広く認識してもらえるような努力を続けていきたい。

Q群馬の皆さんにメッセージを

歴史や考古学の面白さや奥深さに触れられる場、多世代間が交流できる活気ある博物館を目指しています。そのためには、風通しを良く色んな面でオープンにしていかなければいけません。県内外の博物館や関係機関と連携しながら、最新かつ最高水準の研究内容を発信していくと共に、ここを拠点として各地の博物館や遺跡への訪問を促す役割も担っていきたいですね。

文・撮影 中島美江子

 

群馬県立歴史博物館館長
右島 和夫 さん (Migishima Kazuo)

1948年伊勢崎生まれ。群馬大入学後、東国文化研究の先駆者・尾崎喜左雄氏のもとで考古学を学ぶ。同大を経て関西大大学院修士課程修了。博士(文学)で専門は考古学。1977年に県庁職員に。県埋蔵文化財調査研究部長、県教委文化課文化財主監などを歴任。県埋蔵文化財調査事業団理事などを務める。「東国古墳時代の研究」(学生社)「列島の考古学 古墳時代」(共著、河出書房新社)「群馬の古墳物語」(上毛新聞社)など著書多数。2016年4月から県立歴史博物館長に就任