オバマケアの後[1月20日号]

家族ががんと診断されて3カ月余。40代の弟は病院を退院し、外来で抗がん剤治療を受けながら、仕事を再開しました。合間には、趣味のスポーツを楽しむため遠方にも出かけています。治療効果はまだ計れませんが、少なくとも、重い副作用なく薬を使え、生活を継続できているのは幸運です。
ありがたいと思うのは、世界的な治療薬開発の進展と日本の公的医療保険(健康保険)制度です。がん分野では、がん細胞の特性に分子レベルで働きかけ、副作用を抑えて効果を上げる薬が増えています。日本では、薬の安全性や効果が治験で確認され、国から承認されれば、保険が適用されます。新しい薬や治療は高いけれど、保険適用なら自己負担を軽減する制度も使えます。
効果が科学的に示されている薬を使え、治療費用負担は社会保険で抑えられる。国民皆保険の日本では当然にみえるこの仕組みは、実は世界標準ではありません。先進国ですら……。
その実例が米国です。公的医療保険の対象が低所得者らに限られ、民間保険は高額のため加入できない人が続出。人口の4分の1近くが無保険でした。加入しても、保険会社の指示で使える薬や治療法が制限される。改善するため、オバマ政権が進めていたのが医療保険制度改革(オバマケア)でした。
20日(日本時間21日)に就任予定のトランプ次期大統領は、オバマケア撤廃が公約です。代替案づくりが難しく、すぐには実行されないとの見方もありますが、気に病んでいます。かの地にもいるであろう、私たち家族と同じ状況にある人たちを思って。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

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