太陽の鐘を抱く[4月20日号]

「小さい子が大人になった時、『前橋には変な形の鐘がある』と自慢できるような存在になればいい」。前橋出身の糸井重里さんが3月末、広瀬川沿いに設置された「太陽の鐘」の完成記念式で語ったそうです。

直径1メートルの鐘は炎のような突起物を載せ、目をむき口をとがらせた「顔」が存在感を示します。鐘をつるす高さ7㍍の彫刻は、天に鳴く鳥の頭のような曲線です。

作者の岡本太郎は、1970年の大阪万博のシンボル「太陽の塔」を制作しました。高さ70メートル。金に輝く平面的な顔を最上部に、ふくれっ面の顔を腹部に抱き、円錐状の突起を左右に広げるヘンテコな姿です。

万博記念公園に残る塔を、初めて見たのは小学校高学年の遠足時。制服と黄色い帽子姿で集団行動をとる私たちの「日常」に、塔が異物のように突き刺さった感覚を覚えています。

それが作者の狙い通りと学んだのは、ずいぶん後のこと。「日本人に今もし欠けているものがあるとすれば、ベラボウさだ」「勤勉はもう十分なのだから、ここらで底抜けなおおらかさ、失敗したって面白いじゃないか」(67年8月5日付本紙)。万博の4年前に作られた鐘も、同じ精神が貫かれていたと察します。

今月、散歩を兼ねて見に行った鐘は、植樹木の合間に埋もれるようでした。万博の塔が、広大な芝生上に立つのとは真逆のデザイン。木々が枝を伸ばし緑が深くなるにつれ、鐘の存在さえかき消されそう。そんな私の印象が杞憂となるよう、愛され活用されることを期待します。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

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