手 紙[8月10日号]

東京で暮らす実家の母は来週15日に82歳の誕生日を迎える。最近の母は気力体力ともに減退、情緒も不安定で急に老け込んだ。さらに詐欺と思われる建設業者に工事依頼をしそうになるなどトラブルも相次ぎ、もしや認知症が始まったかと心配になった。

そこで先月末、誕生日が近いことにかこつけて母を健康診断に連れて行き、認知機能も調べてもらった。脳のMRI画像診断に加え、絵や数字を用いての知能テストのような検査を30分程度かけて行った。

結果は私の予想を良い意味で裏切り、母は認知機能テストで100点満点を獲得。脳神経外科の医師は認知症の可能性を力強く否定した上で、検査の一環で母が書いた手紙の宛名書きを絶賛した。住所や宛名をバランスよく書き、所定の場所に切手を貼り、封をして「〆」と書くなど、簡単なようだが出来ない人が多いという。医師が言う「大丈夫」は薬よりも効果大だ。母はみるみる自信と明るさを取り戻し、長らくさぼっていた腰痛の治療にも前向きに取り組み始めた。

ひとまず安堵し、ふと我が身を振り返る。30年後の自分はきちんと手紙を書けるだろうか。言いたいことを整理して文章をまとめ、相手を思い浮かべながら体裁を整え投函するまでの一連の作業は、多彩な要素を含んでいて案外高度だ。このお盆休みは、手紙好きの母を見習い、恩師や古い友人に心をこめて手紙を書こう。

(野崎律子)

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