脚本家 金沢 達也 さん

「高校時代、まさに映画の3年E組のようなクラスにいました。おかげで、お笑いに目覚めましたね」と笑う金沢さん=母校・東京農大二高の教室で

「 『究極の普通』という意味を持つ 『ノームコア』な脚本を目指しています」

地球破壊を目論む謎の生物「殺せんせー」と落ちこぼれ生徒たちが織りなす異色の教育コメディー漫画「暗殺教室」。累計発行部数2000万部を突破した人気漫画の実写映画「暗殺教室—卒業編—」が、来月25日に全国公開される。昨春の映画「暗殺教室」に続き、今作も脚本を手掛けた金沢さん(藤岡出身)に作品への思いや理想の脚本、今後の夢などを聞いた。

【世界観をそのまま再現】

Q原作とどう向き合いましたか

原作を変えたがる脚本家もいますが、僕は暗殺教室を読むごとに設定や台詞の素晴らしさ、面白さに引き込まれました。羽住英一郎監督と話し合い前回同様、「原作の世界観をそのまま再現しよう」ということで一致しました。原作者の松井優征さんと密にキャッチボールしながら仕上げたので、より原作の世界観に近付けたと思っています。

Q脚本をどう作り込みましたか 

登場人物やストーリーをじっくり消化してから2時間のドラマに再構築しました。感情を込めて台詞を書いたり、シーンに合わせ叙情的な言葉を紡いでいくイメージがあるかもしれませんが、最初はそうでもない。笑わせたら泣かせる、幸せの後は不幸が起こるという具合に、足したり引いたり算数的作業を繰り返し、最後に感情を込めて完成させました。

Q今作の見どころは

あらすじを読んで、ちょっと泣きました。友情、ロマンス、笑い、SF、青春などが全部詰まった教育エンターテインメント。新しい「金八先生」なんです。これからの先生像を考える上で多くのヒントを与えてくれる作品。さらに、同時進行中の原作、アニメ、映画が三位一体となった究極のメディアミックスになっているので楽しみにして下さい。

Q県内でロケをしています 

みなかみの廃校を使っています。ロケ地選定にも参加させてもらいました。撮影は合宿状態でスタッフもキャストも群馬が大好きに。ぐんま観光特使の使命を果たせて嬉しい。

Q高校時代、作品中の3年E組のようなクラスで過ごしたとか

僕が通っていた農大二高はラグビーが強くて、ラグビー部員が集まった特殊なクラスがありました。僕はサッカー部なのに、なぜかそこに入れられて。ヤンチャな奴が多く、生き残るには「笑い」が必要でした。お笑いに目覚めたのはこのクラスのおかげ。だから、映画の3年E組にかなりシンパシーを感じています。

【意外と出来ちゃった】

Q幼少時から書く事が好きでしたか

全然。サッカーばかりしていました。ただ小6の時に開かれた「あかぎ国体」で、僕の作文が県代表に選ばれました。その作文を読み返してみると確かにうまいなと(笑)。書くことは得意だったかもしれない。

Q芸能界に憧れたのはいつ

なぜか中2の時「芸能界に入らなきゃ」と思い、中学の先輩だった中山秀征さんの所属事務所に応募しました。オーディションとサッカーの試合が重なり受けられませんでしたが。高校、大学はサッカー漬け。でも、芸能界にずっと憧れていました。

Q卒業後、なぜ欽ちゃん劇団に

芸能事務所をいくつか受け、唯一合格したのが欽ちゃん劇団でした。1年364日浅草の舞台に立ちお笑いをやっていましたが、3年目で何かが違うなと。ただ出たくないだと勝手なので、「台本書きます」と言ったら欽ちゃんから「じゃあ放送作家やれば」と。以来、10年以上バラエティー番組などを担当しました。

Qその後、脚本家に転身されました

番組の放送作家は何人もいます。僕は端の方で一コーナーのネタを作ったりしていました。「このままじゃダメだ、もっとダイレクトに勝負したい」と思っていたら脚本を書くチャンスが巡ってきて。で、やってみたら意外と出来ちゃった(笑)。

【”普通”が持つ力を追求】

Q理想の脚本とは

芸能界には変わった人や天才がいっぱいいます。僕もずっとそういう人になりたかった。でも、脚本家になり「ノームコア」が一番強いと気付きました。ファッション用語で「究極の普通」という意味を持つノームコアな脚本を目指しています。

Q書く上で心掛けていることは

多くの脚本家は印象に残る言葉を必死に探していますが僕は逆。普通の言葉が持つ力を追求したい。あと、台詞や設定に「笑い」の要素を必ず盛り込む。急に変なことを言うのではなく、普通のことをちょっとずつズラすと面白くなる。これは欽ちゃんから徹底的に叩き込まれました。

Q脚本で伝えたいことは

ある人から、「金沢さんの作品には『誰からも必要とされていない人はいない』という台詞やニュアンスが必ず入っている」と言われました。自分は全く気付いていませんでした(笑)。僕は性善説というか、人間は良いものだと信じています。だから、辛いことや悲しいことがあっても最後はハッピーな感じにしたい。

【オリジナル脚本作りたい】

Q群馬はどんな場所

「最高の遊び場」。よく魅力度ランキングで最下位争いをしていますけど、単にPR下手なだけで可能性がいっぱい詰まった県。これからも、公私共に群馬を楽しみたい。

Q今後の夢は

脚本の可能性って実は無限にあると言われています。時系列を壊すなど脚本の新しい形が次々とでき、多くの名作が生まれました。今までにない脚本の仕組みを探りながら、笑いと地元を絡めたスポコンもののオリジナル脚本を作りたい。

Q群馬のファンにメッセージを

来月公開の「暗殺教室」は群馬でロケを行っていますが、僕自身も群馬を舞台にした「群馬愛」あふれる作品を手掛けたい。脚本家として、ぐんま観光特使として群馬を盛り上げていきますので応援よろしくお願いします。

文・写真/中島美江子

【プロフィル】Tatsuya Kanazawa
71年藤岡生まれ。農大二高、早稲田大卒業後、萩本企画「欽ちゃん劇団」に入団。俳優を経て放送作家に転身。09年にドラマ「華麗なるスパイ」で脚本家デビュー。テレビドラマ「ラッキーセブン」や「ハンマーセッション!」など数々の話題作を手掛ける。東京在住。

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