「小さな声」すくい上げ問題提起

社会における芸術の役割問う作品やプロジェクト

アーツ前橋で「表現の生態系」展  来年1月13日まで

壁画や毛皮を使った鴻池朋子の作品と三輪途道の猫の彫刻
赤城山と国定忠治などにスポットを当てた尾花賢一と石倉敏明の作品

信仰、マイノリティ、共同体、ケア…アートを通して、社会の様々な課題を横断的視点から共有しようと試みる企画展「表現の生態系 世界との関係をつくりかえる」が、アーツ前橋で開催中だ。

アーツでは芸術や美術館が社会をどう豊かにしていくかを考えるため、2016年から福祉、教育、医療に関わる団体と協働しながら様々なプロジェクトを継続的に行っている。同プロジェクトの延長線上にある今展では31組のアーティストによる作品を公開し、社会における芸術の役割を様々な視点から探っている。

県内のセクシャルマイノリティ支援団体が、日本最大のLGBT(性的少数者)のパレード用に制作した横断幕やプラカードなどで構成された参加型作品を始め、誰もが避けて通れない老いや死をテーマにした映像、神社や教会といった人々の拠り所となる祈りの場を撮影した写真、古くから山岳信仰の対象であった赤城山と、そこに惹きつけられた国定忠治や暴走族などアウトローの生き方にスポットを当てた平面や立体、近代以降に日本とヨーロッパで起こった宗教と美術の関係性を対比して見せるインスタレーションなど、会場には多彩な作品が並ぶ。

「あかつきの村」のマリア像に設置されたQRコードにスマホをかざす来場者

さらに、今回の展示は館内にとどまらず館外に展開しているのも見どころの一つ。心の病を抱えたベトナム難民を受け入れてきた民間支援施設「あかつきの村」(前橋)には、この場所ならではの歴史や難民たちの記憶をたどる体験型作品が点在。敷地内のマリア像など8か所に設置されたQRコードを読みとると、そこに暮らしていた人々の様子が動画や音声で再生される。今展で発表されている作品やプロジェクトは様々な分野と交わる中で制作されたものだが、いずれも大きな声にかき消されがちな「小さな声」を丁寧に、地道にすくい上げている。その声なき声が響き合う展示空間は、足を踏み入れたものに多くの問題を提起し、複雑で豊かな社会への想像を促す。

同展を企画した今井朋学芸員は、「価値観の異なる者同士が協働することで生まれた作品を通して、社会に必要や視点や考え方、芸術の役割とは何かを観る人、一人ひとりが感じてもらえたら」と話す。来年1月13日まで。一般600円、大学生400円。来年1月12日午後2時から、関連トークイベント「アウト・オブ・民藝」(要観覧料)を開催。同館(027・230・1144)。(中島美江子)

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